恋風(こいかぜ)【2】


 亮太郎は首筋まで真っ赤に染め、背中を向けてしまった巡の姿に頭をかいた。

 小さな肩を抱きしめてしまいたい衝動を必死に堪え、気持ちを落ち着けるために息を一つ吐く。

 何て声を掛けてあげようか、考えてもまとまらないことに亮太郎は苦笑した。

 相当舞い上がっている自分に気が付いて、公園に来る前の自分を思い出すと恥ずかしくなる。

 年甲斐もなく緊張して、公園の入口についてあの場所に座っていても、まるで浮いているように身体がふわついた。

 自信があるわけじゃなかった、そもそも結果を期待していたわけではなく、自分の胸の中だけに気持ちを留めておくことに限界を感じた末の行動。

 一度その気持ちを認めてしまうと、抑えようとすればするほど反発していくみたいに、巡に対する気持ちはどんどん膨れ上がった。

「お……怒ったの?」

 振り返った巡が不安そうに亮太郎を見上げる。

 こんな顔をされて本気で怒るような男なんてきっといない。

 これが計算でしている演技だとしても許したくなる可愛さ、でも演技が出来るほど器用じゃないことを知っているし、顔を見ていればすぐに分かる。

 これが素だと思うと込み上げるものがある。

「怒ってるって言ったら?」

 意地悪心が顔を覗かせた勢いで出た言葉に巡の顔が強張った。

 あんまり俺を自惚れさせるなって。

 喉元まで出掛かった言葉を呑み込んだ亮太郎は巡の言葉に心を奪われた。

「べ……別に嫌って言ったんじゃなくて、まだ慣れてなくて……、だから慣れるまでもう少しだけ……」

 これだから困る、恋愛に慣れている今までの彼女達とは違う。

 それがいつか物足りないと感じる時がくるのかもしれないけれど、今はそんなことはどうでもいい、むしろワクワクしている自分がいる。

「どっちで呼べばいい?」

 大概自分は意地悪だなと思う。

 こんな言われ方をしたら相手が困ることを分かっている、むしろ困っている顔を見たいと思っているんだから質が悪い。

「どっち……って」

「呼び捨てでもいい? それとも……」

「あ、後の方!!」

 遮るようにして叫んだ巡に亮太郎はふわりと微笑んだ。

「オッケー、巡ちゃん」

「わ、わざわざ呼ばなくてもいいの!」

「イッテ、イタイイタイ……痛いって、巡ちゃん」

 小さな手がドキドキと高鳴っている胸元に振り下ろされる度に唇から自然と笑いが零れてしまう。

「また、呼んだ!!」

「呼ぶよー。何度だって呼ぶよー」

 ムキになって怒る顔に見惚れ殴られるままになっていた亮太郎は視界の端に入ってきた人影に気が付いた。

「何やってんの、お前ら」

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