恋風(こいかぜ)【41】


 まるで全身が心臓にでもなったように、体中がドクンドクン音を立てる。

 でも不思議と嫌じゃないことに気付いてしまった巡はハッとした。

『もうこうやってその人のことばかり考えてるってことが、好きってことじゃないのかな?』

 あの時は絶対にそんなことありえないと否定した。

 会って見たらあっさり分かるかもしれない、そう言われた言葉を思い出して、いつの間にか胸を覆っていたモヤモヤが消えていることにも気付いた。

(だって……白石なのに……)

 好きになるなんてありえない、相手は兄の友達でいつもふざけた態度ばかりして、顔を見れば腹を立てていたはずなのに……。

 それにこんな話の展開だってありえない。

 ハッキリ言われたわけじゃなくても、亮太郎の言おうとしていることに気付いてしまったら、その小さな疑問は消えることなく大きくなっていくばかりで、確認せずにはいられなかった。

「私……いつも、怒ってばっかで……」

「うん、可愛いよ。尋のことが大好きなめぐっぺも、すげームキになって怒るめぐっぺも可愛い」

「な……っ」

 あからさまな言葉に巡の顔が一瞬で赤くなり、それを見た亮太郎は小さく吹き出した。

「俺……言ったじゃん。覚えてない? 好きな女の子のタイプは胸が大きくて、怒った顔が可愛い子。何気にアピールしたんだけど気付かなかった?」

(そんなの気付くはずない)

 いっつも冗談ばかりで、本気なのかどうかも分からない人で、まさかそれが……自分かもしれない、なんて誰だって気付くはずないよ。

 それにあの時にそんなこと言われてもきっと一刀両断して……、そう思った巡の心に新たな疑問が生まれた。

(今なら……?)

 まるで言われるのを待っているような自分の心に慌てて首を横に振る。

「めぐーっぺ?」

 優しい声で呼ばれて胸がキュゥと締め付けられる。

「気付くわけ……ないじゃん。そんなこと、一言も言ってない……くせに」

「うん、まだ言ってないから」

「まだ言っ……」

 サラリと言われたけれど、それはもう言ったと同じことなんじゃないかと、訳が分からなくなった巡は何とか頭の中を整理しようと亮太郎に背を向けた。

(待って、待って待って……)

 一体どうしてこんなことになってしまったのか、分からなくなった時は順序立てて考えればいいと、誰かに聞いたことを思い出して実行しようとしても上手くいかない。

 うるさいだけの心臓とまるで高熱を出したように熱い全身、立っているだけでやっとの巡に亮太郎が名前を呼ぶ。

「めぐっぺ、こっち向いて」

「無理ッ!」

 どんな顔をしているのか自分でも分からない、でも人様に見せられるような顔をしているはずもなく、激しく首を横に振った。


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