2010、夏祭り:-one-33
部屋に入って開口一番、陸はこう切り出した。
「月曜日って、さ……」
「月曜日?」
寝室で着替える麻衣をチラチラ見ながらベッドに腰掛けた陸は思い切って核心に触れた。
「仕事終わってから、誰かと会ったりした?」
(この聞き方ってずるいよなー。俺はアイツと会ってる所を見てるわけだし、これでもし違う名前を出されたりでもしたら、きっと立ち直れない)
着替えていた麻衣が手を止めて振り返った。
驚いた表情に少し胸が痛んだけれど、それよりもこの後に麻衣が何て答えるのかの方が重要だ。
少し考える素振りを見せた麻衣は着替えを中断して陸の側までやって来た。
二人の距離が狭まると陸はまるで自分が追い詰められたような気がして唾を飲み込んだ。
「見た、とか?」
何を、とは言わなかったけれど陸は頷いて返してぼそりと答えた。
「迎えに……行った」
「声、掛けてくれれば良かったのにー」
「そんなのっ!」
(声を掛けられるわけないだろ)
心の声が届いたのか、麻衣は苦笑いを浮かべると隣に腰を下ろした。
「遠慮したの?」
「何で俺がアイツに遠慮なんかしなくちゃいけないの! 麻衣は俺の彼女なのにっ!」
「じゃあ、声掛けてくれたら良かったのに。私だって奏ちゃんに駅まで送って貰うより、陸とマンションに帰りたかったな」」
「アイツ、何の用だったの?」
麻衣の言葉にいくらか安堵して、麻衣の手に自分の手を重ねて少し力を込めて握った。
「実家から帰って来る時に奏ちゃんがいたから送ってもらったの。すごい荷物になっちゃって。その時にね、貰ってきたコーンの缶詰を車に落としちゃったから、届けてくれただけ」
「わざわざ?」
コーンの缶詰は口実で麻衣に会いに来たんだと疑いの眼差しを向けると麻衣にクスリと笑われた。
「私の好きなトップスのチョコケーキもくれたよ。陸も食べたでしょ?」
食べた事を思い出して苦虫を噛み潰したような顔をする陸に麻衣は口元を押さえて笑いながら続けた。
「陸、気が付かなかった? 私が乗ったのは助手席じゃなくて、後部座席だったんだよ」
「それが何」
チョコケーキは確かに美味しかったけれど、まるで敵の施しを受けたようで気分が悪い。
不貞腐れて返事をすると麻衣が呆れたような口振りで言う。
「助手席にはもう先客がいたってこと。私が入る隙間なんてこれっぽちもないんです」
本当はそこで「隙間があったら入るつもりなの」と言おうと思ったけれど辛うじて飲み込むことが出来た。
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