2010、夏祭り:-one-32
自分はつくづく子供なんだと自覚しても、怖くて事実を確認出来ないまま2〜3日が過ぎた。
毎日自分のマンションに帰ったし、麻衣とも普通に言葉を交わした。
でも心の中ではあの男と何で会っていたのか問い詰めたい自分を押し殺している。
(なんでそんなに普通なんだろ)
木曜日の朝、定休日以外の公休日だった陸はいつものように出勤の支度をする麻衣を見ていた。
隠し事をしているようには見えない、疚しい事があるようにも見えない。
偶然会ったのかもしれないとこじつけるにはあの状況は無理がある、二人は間違いなく約束をしていたはずだ。
(やっぱ……確認したい)
どんな結果が待っているか分からないけれど、こんなもやもやした気持ちを引き摺っているくらいなら事実を知った方がいい。
今確認しようかとも思ったけれど、麻衣も仕事へ行く前で時間がないし、自分も今日は午後から百合と会う約束がある。
不安定な精神状態になるかもしれないと分かっているなら、話をするのは夜にしようと決めた。
「麻衣、今日迎えに行くよ」
「うん、ありがと」
朝食の後片付けをする麻衣の笑顔はいつも通り、この笑顔の下に何か隠しているとしたら、アカデミー賞ものだ。
「夕飯はどうする?」
「あー……、外で食べようか。ほら、この前麻衣が言ってた自然食レストラン」
行こうと約束していたのに、ケンカしてしまって結局行きそびれたままだった。
陸の提案に麻衣は少しすまなそうな顔をしたけれど頷いた。
(飯、食った後……の方がいいよな)
今日は長い一日になりそうだと陸は覚悟を決めた。
◆ ◆ ◆
「美味しかったぁ。また来たいな」
レストランからの帰りの車の中、隣で麻衣が満足そうに言ったが陸は曖昧に頷いた。
(味なんて全然分かんなかった)
おまけに野菜がメインのせいか、もう一度来たいという気持ちはこれっぽちも起きていない。
頭の中にあるのはどのタイミングで、どうやって切り出すか、そればかりを考えてしまう。
マンションまで帰る道も上の空だった陸はエレベーターの中でとうとう麻衣に顔を覗き込まれてしまった。
「陸……どうしたの?」
「え、何で?」
「何かあった?」
(麻衣がそれを聞く!?)
これはもう話を切り出すしかないと陸は覚悟を決めた。
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