2010、夏祭り:-one-30


 凝り固まった首筋に手をやって、ギシギシと顔を上げた陸は明るくなっている窓の外を放心したまま眺めた。

「本当に朝まで寝かせてもらえなかった」

「何言ってんだよ。まだ寝かせねえぞー」

 十以上も歳が離れているのに、その元気はどこから来るのか不思議で仕方ない。

 陸はずっと握っていた携帯ゲーム機から手を離し、フローリングの床に倒れ込んだ。

「勘弁して下さい」

「だらしねーなー」

 根を上げた陸は笑いながら立ち上がる彰光を視線の端で追いながら携帯に手を伸ばした。

 麻衣には彰光の部屋に着いてからメールだけ送った、返信はなかったからきっと寝ていたんだと思う。

 麻衣は帰らなかったことをどう思っただろう。

 きっと何かの事情があって会っただけだと思っても、わずかに残る浮気の可能性を消すことが出来ない自分が歯痒い。

「ほら、水」

 冷たいペットボトルを差し出され、起き上がって受け取ると彰光が不意に頭に手を置いた。

「彰さん?」

「腹、減ったな。何か食うか?」

「あ……はい」

 素直に頷いた陸はキッチンへ向かう彰光の後に続いてカウンターに置かれたスツールに腰掛けた。

 慣れた手つきで準備をする彰光を見ながら、忘れていたがまだ誠の部屋にいる頃は毎日のように彰光の手料理を食べていたことを思い出した。

「ホットケーキ?」

「好きだろ? 朝だから野菜ジュースでパンケーキ風、ついでにカリカリに焼いたベーコンと目玉焼き。サラダは……なんかあったかなー」

 少しするとバターの香りとベーコンの香ばしい匂いがして、空腹に耐えかねた胃が早くしろと急かすように鳴いた。

 いつの間にセットしたのかコーヒーメーカーが音を立て、目の前にはまるでホテルの朝食のように豪華なメニューが並んでいく。

(麻衣、もう飯食ったかな)

 そろそろ麻衣が仕事に行く時間かと時計を確認するとちょうど携帯がメールの着信を告げた。

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