2010、夏祭り:-one-28
おまけに今日は珍しく悠斗が風邪を引いたらしく休みで、無条件で付き合ってくれる相手がいないこともついていない。
「飯がダメなら、添い寝して」
いつもならこんな時は悠斗をからかって遊ぶか、迷惑そうにしながらも付き合ってくれる誠に愚痴るのに、その二人がいない上に思いのほか抱き心地の良い響の身体についそんな言葉が出てしまった。
「殴っていいですか?」
「心配しなくても一緒に寝るだけ」
「そ、それ以外に何があるって言うんですか!い……いい加減に離れて下さいっ」
諦めていたのか大人しくなっていた響の身体が再び暴れ始め、さっきよりも激しい抵抗を見せて陸は首が折れそうなほど額を手で押された。
首を仰け反らせながら手だけは離さないとしがみついていた陸は暴れる響の顔を見て思わず呟いた。
「いや……あり、かも」
「はあ!?」
「お前って……そんなに色気あったか? つーか可愛いくね?」
「ふ、ふざけてないで離して下さいっ!」
「あ、また赤くなった。お前、マジやばいだろ」
「ヤバイのは陸さんの頭の中です! いい加減にしないと怒りますよ!」
「俺、経験ないけど優しくするし。何だったら響がリードしてくれてもいいぜ。あ、もちろん俺が入れる方な。あーでも気持ち良すぎてハマったりしたら取り返しの……グハァッ」
目の前で火花が飛んだ。
その後襲ってきた強烈な痛みに陸は頭を押さえてソファの上でのた打ち回ったがスーツの襟を掴まれて持ち上げられた。
「いい加減にしとけ」
「……彰さん」
白いシャツに黒のジレとパンツ、無精ひげをたくわえた口元にはタバコを咥え、空いている方の手で拳を作っている。
「響に謝れ」
顎をしゃくって低い声で言う彰光の後ろに視線から避けるように横を向いた響が立っている。
怒っていると思っていた響の横顔が泣きだしそうだということに気が付いて陸はのろのろと立ち上がった。
「響、悪……い。マジごめん。ふざけすぎた」
「別に……いいです」
声も表情も硬い、頑ななまでに視線を逸らす響に陸はうな垂れた。
(マジで最悪。俺……何やってんだ)
こんな形で大事な仲間を傷つけることは本意じゃないのに、取り返しの付かないことをしたという現実だけが重く圧し掛かる。
「マジでごめん。本当に悪かった」
一気に冷えた頭を深く下げたまま、響の言葉が返ってくるまで動くことが出来なかった。
「明日は醜態晒さないで下さいね。俺、休みだから面倒見れませんよ」
返って来た言葉に慌てて顔を上げると、響がむくれた顔をこっちに向けていた。
「俺以外にそんなことしたら冗談じゃすみませんよ」
「ひーびーきーーーー」
再び抱きつこうと手を伸ばした陸の身体が後ろへ強く引っ張られた。
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