2010、夏祭り:-one-25


 ドアを開けて玄関が明るいことに陸はホッとした。

(麻衣、帰ってる)

 遅く帰ってくる自分のために、麻衣はいつも玄関の電気を点けておいてくれる。

 一人で暮らしている頃は真っ暗な玄関で手探りでスイッチを探して、そのまま置いてある靴に躓いたこともある。

 あの頃は脱ぎ散らかしていた靴も、今は麻衣が綺麗に片付けてくれていて、タタキには麻衣の小さなサンダルが揃えて置いてあるだけだ。

 静かな部屋に足音を立てないように真っ直ぐキッチンへ向かう。

 持っていたアイスを冷凍庫に入れようとした陸はキッチンに置かれている皿に手を止めた。

(飯、作ってくれたんだ……)

 エビフライの乗った皿を見て、自分は何をしていたんだと改めてうな垂れた。

 ウジウジ悩んで帰ることが出来ず、酒を飲んで過ごしていただけだった。

 陸はラップを剥がしてエビフライを1本取り出すとかぶりついた。

「美味い。今日の鱧料理よりこっちの方がすげー美味い」

 冷めたエビフライを立て続けに2本食べた陸はアイスを冷凍庫に放り込んで踵を返すと早足で浴室へ向かった。

 タバコ臭い服を脱ぎ捨てて、熱いシャワーで酒臭さもタバコ臭さも洗い流す。

 鬱屈していた気持ちが排水溝に流れてき、すっきりした心には愛しいという気持ちばかりが溢れた。

 ボディシャンプーの柑橘系の香りを纏い、寝室へ向かおうとした陸はリビングのテレビが点いていることに気が付いて足を止めた。

 さっきは気付かなかったが、ソファの上で丸くなっている麻衣の姿見える。

(待ってて、くれたの?)

 足音を忍ばせて近付けば、テーブルの上には半分ほど空になったガラスポットと、食べかけのクッキーがそのままになっている。

 麻衣はタオルケットに身体を包み、クッションを枕にして眠っている。

「麻衣、好きだよ。本当に大好きなんだよ。だから俺のこと嫌いにならないでね」

 言わずにはいられない言葉を口にして、麻衣の頬に触れた陸は額にキスをすると、麻衣とソファの間に手を差し入れた。

「……んっ」

「ごめん。起こしちゃった?」

 抱き上げて麻衣をベッドに運ぼうとしたが、眠りが浅かったのかすぐに目を覚ました麻衣と目が合った。

「陸……」

 目の焦点が合った麻衣に名前を呼ばれてドキリとする。

(まだ、怒ってるかな)

 その後に何か言われるんじゃないかとビクビクしていたが陸だったが、予想に反して麻衣はふわりと微笑んだ。

「おかえりなさい」

 寝ぼけた声は舌足らずで幼い、でもそれがいつもの麻衣だということにホッとした。

「ただいま。遅くなってごめんね」

 素直に言うことが出来た言葉に麻衣がまた笑ってくれたのが嬉しくて、陸はその場で麻衣の身体をギュッと抱きしめた。

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