2010、夏祭り:-one-24
昼間の暑さは和らいだものの、湿気の含んだ空気が身体にまとわりつく。
時折吹く風が汗ばむ肌を心地良く撫でる。
陸はようやく自分の住んでいるマンションが見えてくると足を止めた。
誠の部屋を出たのは1時間以上も前のこと、ようやく帰る決心が出来た陸だったが誠がタクシーを呼ぶと言ったが断った。
早く帰りたい気持ちはあったけれど、酔いを醒ましたいからと歩いて帰って来た。
持っていたペットボトルはあっという間に空になり、体内のアルコールと一緒に汗となって出たような気がする。
「もう、帰ってるよね」
マンションまで100mという所で立ち止まった陸は回れ右をして50mほど戻ってコンビニへ入った。
麻衣のいない部屋に帰ることが怖い。
日曜の夜に戻ると言ったのだから、戻って来ていると思うけれど、もし戻っていなかったらと考えてしまうと帰ることを躊躇してしまう。
コンビニに入った陸は何を買うでもなかったが、アイス売り場の前で立ち止まり麻衣の好きなアイスに手を伸ばした。
(これ買ったら、真っ直ぐ帰らないといけないよな)
少し悩んでいた陸だったが、覚悟を決めるとアイスを手に取ってレジに向かった。
コンビニの袋にアイスが一つ、食べ物で機嫌を取ろうというつもりはないけれど、これがきっかけになればと思う。
マンションへ向かう足取りは決して軽くはないけれど、今度は足を止めることなくエントランスへ入ることが出来た。
暗証番号を押しながら、つい零してしまったため息に苦笑いになる。
(情けねぇなぁ)
女一人まともに扱えないくせに、店ではナンバーのついたホストだって言うんだから笑ってしまう。
どうしても麻衣だけは違う、それは本気の相手だからだということは分かっている。
女性を喜ばす言葉をたくさん知っているはずなのに、麻衣にはいつも自分の願いや望みばかりを口にしてしまう。
ハッキリ言って余裕がないんだ。
「せっかくの日曜だったのに……」
エレベーターに乗り込んで時計を見れば、日曜日はもう終わろうとしている。
麻衣の顔を見ない、声すら聞いていない、ここ最近では最悪の日曜日だ。
これで麻衣が部屋にいなかったら、と考えた陸はこのままエレベーターが故障して止まってしまえばいいのに、そんなことを思ったが空しくもエレベーターはあっという間に目的の階へと到着した。
(ここまで来たら覚悟を決めるしかないよな)
男だろ、と小さな声で叱咤した陸は玄関の鍵を開けた。
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