2010、夏祭り:君の隣1


 夏といえば海やプールとくれば水着の女の子、花火や夏祭りとくれば浴衣の女の子。

 男子高校生ならそんなことを思うはず、実際にそういう女の子が近くを通れば目で追ってしまう。

 下着の延長みたいなワンピース姿の女の子にソワソワしたり、おくれ毛が揺れるうなじにドキドキしたりする。

 祐二はすれ違う女の子の浴衣姿を横目で追いながら心の中でため息を吐いた。

(俺は普通に健康な男子高校生なわけ、確かにそうだったはずなのに、どうして今こんなことになってんだろう)

 気が付けば八月も夏休みも終盤、いつの間にか短くなった陽に秋の訪れを感じつつも、昼間のうだる様な暑さにクーラーの効いた部屋に篭る日が続いていた。

 アスファルトの上には昼間の暑さが残っていたが、西の彼方へと沈み吹いた風の涼しさが暑さを和らげている。

 いつもは薄暗いはずの道路も今日は違う。

 両側には見ているだけで心が逸るような賑やかな提灯がぶら下がる屋台が並ぶ。

 威勢の良い呼び込みや、子供達のはしゃぐ声、香ばしい醤油の香りと甘いシロップの誘惑。

 隣の町(駅でいえば二つ分)の夏祭りは少し有名で、タウン誌の夏祭りの特集にも載ったりする。

 何万発だったか覚えてないけど花火が上がり、広いグラウンドの中央には大きなやぐら、そこからのびる提灯が頭上で揺れる。

 鳴り止むことのない太鼓の音、途切れることのない夏の音色、老若男女問わず盆踊りを楽しむ。

 そんな夏祭りってのは恋人同士なら彼女の可愛い浴衣姿でドキドキしたり、友達同士なら屋台を冷やかしながら騒ぐのが定番だと祐二は思っていた。

(なんで俺は甚平を着て、おまけに浴衣姿の男と並んで歩いてんだ)

 理由は簡単……この夏祭りは毎年来ているし、浴衣(と甚平)は無理矢理親に着せられたし、それに……大きな声じゃ言えないけど二人が恋人同士だからだ。

 祐二は隣を歩く貴俊の姿を横目でチラリと見上げた。

 いつも思うことは貴俊は姿勢が良い。

 部活で弓道なんてやってるせいかもしれない、そのせいで20センチも違う身長差はより目立つ。

 特に今日は浴衣を着ているせいか背筋がピッと伸びていて、少し伸びた長めの黒髪はいつよもりも遠く感じる。

 白っぽい生地に細かい十字の柄、ピシっと締めた帯はいつものウエストの位置より低いのに、祐二のウエストの位置より高い。

祐二は自分の姿に視線を落とした。

 紺色の甚平で後ろには龍の絵が描かれ、大人っぽく落ち着いた浴衣姿の貴俊と並ぶと……差は歴然だ。

 家が隣同士ということもあって当然のように親同士も仲が良くて、母親達が一緒に買いに行ったらしい。

 どうして貴俊が浴衣で自分が甚平なのか、不満に思った祐二は理由を問い詰めたらアッサリと返された。

「だってカッコいい甚平が欲しいって言ってたじゃない。例えば龍の絵が描いてあるやつ! って言うからーお母さんだって本当はこんな龍の絵が描いてあるのは嫌だったのよぉ? でもねぇ……貴俊くんみたいに浴衣は無理だし、祐二が欲しいって言うから仕方なく……」

 さりげなくしかしハッキリと「無理」と言われ、おまけに散々この甚平について文句を言われた。

(だったら貴俊だって甚平にすりゃいいじゃん、俺だけこんなの……ガキっぽくてすげぇカッコ悪い)

 実は何日も前から楽しみにしていた夏祭りだったのに、こんな感じで最初から気分は乗らないまま長い夜が始まった。


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