2010、夏祭り:-one-22


 タバコの煙をぷかりと浮かべ、それが薄くなって消えるまでボンヤリと眺めていた。

 口元に持っていったタバコの灰が今にも落ちそうだと気が付いて、灰皿を手繰り寄せようとするが、それより早くタバコは取り上げられ声が降って来た。

「寝タバコは止めろ。お前……タバコ、止めたんじゃなかったのか?」

「別に。たまたま吸いたくなっただけ」

 灰皿でタバコを消す誠は目を細めて、テーブルの上に無造作に置かれたライターに手を伸ばした。

 プラチナで仕上げてある丸みを帯びたデザインがしっくりと手に馴染む、少しひんやりする手触りを楽しんでいた誠はライターの火を点けた。

「新品だな」

 その一言に陸は眉根を寄せ、ぷいと横を向いて背を向けた。

「百合さんが買ってくれた。コンビニで買ったライター取り上げられた」

 子供のように拗ねた口調に誠は苦笑いして、ライターをテーブルに戻すと陸の向かい側のソファに腰を下ろした。

 タバコに手を伸ばし、自分のライターで火を点けた誠は陸に向かって手近にあったクッションを投げつけた。

「人の部屋来て腐ってんじゃねぇぞ」

「別に、腐ってねーし」

 むくりと起き上がった陸は不貞腐れた顔のまま誠を睨みつけ、ソファの上で胡坐を掻くと来る途中にコンビニで買ったおつまみに手を伸ばす。

「じゃあ、聞くけどな。休みの日にこんな所で、そんなもん食ってる理由はなんだ」

 サキイカを口の中に詰め込んで、もごもごと口を動かしていた陸は視線を泳がした。

(好きでこんなとこ来てんじゃねーもん)

 麻衣とケンカをしたのは三日前、自分から謝るつもりなんてないと思っていたけれど、今朝――日曜の朝――目が覚めてベッドの広さに気持ちが揺らいだ。

 いつもの日曜なら間違いなく迎えに行ったけれど、今日に限ってどうしても外せない用事があった。

 今度の夏祭り店外デートを手にした上客の百合が浴衣を仕立てるからと付き合わされた。

 ホストとしてデビューする前、それこそ厨房の下働きの頃から目を掛けてくれている百合、若い客のように無理難題を言わないどころか、デビューした頃から客のあしらい方を教え、スーツだけではなく小物一つまで最高級品を揃えてくれた。

 その百合が珍しく嬉しそうに休日のデートを口にした。

(断れるわけないんだ)

 上客だからという理由だけじゃない、この世界で生きていくために必要なことを教えてくれた二人のうちの一人だからだ。

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