2010、夏祭り:-one-21
一人で過ごすにはこの部屋は広すぎる。
麻衣は携帯に伸ばした手を引っ込めて、数時間前に用意して手付かずの食卓に視線を落とした。
(連絡……したいけど、もしお客さんと一緒にいたら困るよね)
そうやって悩むうち、時間はあっという間に過ぎ、午後9時を過ぎると麻衣は立ち上がって用意した食事を片付けた。
日曜日に一人で過ごすのは久し振り、そもそも一緒に暮らすようになってからは、一人暮らしの頃にはどうやって過ごしていたのか思い出せなくなっていた。
退屈というより寂しい、時計ばかり気になってテレビを点けても上の空、携帯と玄関ばかりに気持ちが向いてしまう。
お風呂を済ませても陸の帰って来ない部屋はひんやりと感じた。
(帰って来る、よね)
どんなに遅くても今日は顔を見て話をしないといけないような気がする。
一緒に暮らしているのに、気まずい思いをするのは思っているより疲れてしまう。
あの時はお互い感情的になってしまったけれど、冷静になって話しをすれば分かり合えると信じている。
(今は陸が帰って来るのを待つことだけ)
何時になるか分からないけれど、録っておいた映画でも見て時間を潰すことにした麻衣は、お茶を淹れるためにキッチンへ向かった。
ガラスポットにたっぷり淹れたハーブティーは、ラベンダー・カモミール・マリーゴールドなどのブレンドで、淹れたての強いラベンダーの香りが部屋全体に広がった。
お茶のお供にはオレンジピール入りのチョコクッキーを用意した。
長期戦覚悟でソファに陣取ると思いがけず携帯が鳴り、麻衣は飛びつく勢いで電話に出た。
「もしもし!?」
『よっ』
「なんだ、奏ちゃんか」
掛かってきた相手の名前を確認して出なかったことに深くため息を吐く。
『あからさまに嫌な声出すなよ。でも、まあ……その感じじゃまだ仲直り出来てねぇな?』
「うるさいなぁ……」
奏太にはマンションへ送ってもらう途中、スーパーの買出しにも付き合ってもらった。
好きなエビフライを作ると言えば、食い物に釣られるような男はたかが知れてる、と文句を言いながら、でも最後には上手くやれよと言葉を掛けてくれた。
『ま、いんだけど。というか……仲直りしたところに俺が電話したら、またケンカ勃発しただろうし、良かったんじゃね』
「私達のことはもういいから。それより、どうしたの?」
『ああ。荷物落ちたみたいでさ、コーンの缶詰が転がってた。明日、仕事終わる頃会社に寄るよ』
「あ、そうだったんだ。全然気付かなかった。でも……わざわざいいよ。奏ちゃん食べてよ」
『気にすんな。どうせ車で出掛けるついでだ』
「デート?」
仕返しとばかりに笑ってそう言うと、奏太の返事は意外なものだった。
『そうだよ。俺達は誰かさん達と違ってラブラブだからな』
「はいはい。ごちそーさまでした」
『じゃあ、明日な』
仲の良さに当てられたような気分になったけれど、鬱々とした気持ちが少しだけ晴れている。
早く仲直りしよう、その思いはさらに強くなった。
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