2010、夏祭り:-one-20


 両親が見送る中、車のドアを閉めた麻衣は窓を開けて手を振った。

「じゃあ、来週また来るね!」

 美紀の肩を抱く竜之介が手を上げて、麻衣を通り越して運転席に座る奏太に声を掛ける。

「悪いな。うちのじゃじゃ馬をよろしく頼むぞ」

「帰るついでなんでいいっすよ。無事に送り届けるんで、安心して下さい」

(じゃじゃ馬って……、そこに触れない奏ちゃんも奏ちゃんだし)

 もう突っ込む気にもなれない。

「奏ちゃん、早く! 夕方までに着かないと夕飯の支度に間に合わなくなっちゃう」

「はいはい」

 二人にもう一度手を振ると車は直ぐに走り出した。

 いつもは陸の隣で見る風景は、乗る車が違うだけで随分と違って見えた。

 走り出して車が国道に入る頃、奏太にタバコを吸ってもいいかと声を掛けられた。

 いいよ、と返すと窓を薄く開けた奏太は運転中にも関わらず、器用にタバコを取り出して火を点けた。

「忠犬はどうした?」

「え、なに?」

 真横から当たる強い太陽の日差しに目を細めていた麻衣は利き返した。

「忠犬ハチ公みたいに、いっつもぴったりくっついてるだろうよ」

 そう言われてすぐに陸の顔を浮かべた麻衣は、心の中で陸に謝ったけれどその表現があまりにも的確で笑ってしまった。

「アイツがついて来ないってことは、ケンカでもしたか?」

「ま……ね。でも、帰ったら仲直りするから大丈夫」

「本当に大丈夫か? 俺と一緒にいるなんて知ったらまたご機嫌斜めだぜ?」

 茶化す奏太の言葉に麻衣はつい溜息をこぼしてしまった。

 男の人を見ると誰彼構わず敵意剥き出しになるのだけは本当に何とかして欲しい。

「奏ちゃんと二人でいても、心配する必要なんてこれっぽちもないのにね」

「男として安全パイ扱いは非常に不本意なんだが?」

「そんなこと言っていいわけ? 可愛いあの子が怒っても知らないよー」

 ひょんなことから奏太に恋人が出来たことを知り、それまであった二人の微妙な関係はようやく幼なじみという位置に落ち着いた。

 もちろん陸もそのことを知って、清々したと手放しで祝福していた。

「止めてくれ。拗ねると手が付けられん」

 そんなことを言っても奏太の横顔がとても幸せそうで、麻衣は二人の仲が順調であることにホッとした。

「でも、奏ちゃんがねぇ。最初に知った時は意外過ぎて冗談かと思った」

「俺が一番驚いてるっつーの」

 強い西日のせいなのか、それとも別の原因なのか、奏太の耳が赤くなっていることに気付いたけれど、麻衣は口元に笑みを浮かべるだけで見ぬふりをした。

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