2010、夏祭り:-one-19


 麻衣の幼なじみ・三田村奏太はサングラスを取ると竜之介に頭を下げた。

「こんちは」

「おう。どうした」

「竜さん、これ好きだったのを思い出して」

 遠慮なく部屋に入って来る奏太を睨み付けても、まったく気にする様子も見せず箱をドンとテーブルに置いた。

「おっ、すげえな。俺の店でもなかなか手に入らねぇぞ」

「オーナーの伝手で。1本回して貰いました」

「いいのか? 貴重だろ。後で返せって言われても返せねぇぞ」

「いいっすよ。俺は家で焼酎飲むことはほとんどないんで」

 二人の会話はよく分からないが、どうやら入手困難な焼酎を貰ったらしい。

 麻衣は二人のやり取りを盗み見ていたが、目を逸らす前に竜之介に気付かれた。

「お前は気が利くな。昨日突然帰って来たどこかの娘は久しぶりに顔を見せたくせに手ぶらで……」

 嫌味たっぷりに言われて睨み返せば、それすらも楽しんでいるようにニヤリと笑い返された。

(もう、お父ちゃんって、絶対にホスト贔屓だと思う!)

 奏太のことは昔から息子のように可愛がっているけれど、東京でしていたホストを辞めこっちに戻って来てからは、ますます可愛がっているように見える。

 そしてそれ以上に可愛がっているのは、実の娘ではなく恋人の陸なのだから複雑だ。

「手ぶらじゃないじゃないですか。麻衣が帰ってくること自体がどんな土産にも勝るじゃないですか」

 奏太の言葉に上機嫌に竜之介が声を上げる。

(また、株上げてるし……)

 ムカムカしながら荷物の肩付けを再開させた麻衣だったが、笑うのを止め呟く竜之介の声を聞いて手を止めた。

「顔を見せなくてもいいから、元気にやっててくれるのが一番だけどな」

 胸の奥がズキンと痛んだ。

 帰って来れる場所があるから、いつも心のどこかでそう思っているからこそ、今回みたいな時に逃げるように帰って来てしまう。

 何も言わない両親にホッとしていたけれど、心配ばかりをかけてしまっていることに反省した。

「お母ちゃん……」

 側で持って帰る荷物を用意してくれている美紀に声を掛け、麻衣は言葉を探したけれどすぐには見つからなかった。

「バカね。それが親の仕事なのよ」

「……え?」

「子供がいくつになっても、親は親であることに変わりはないもの。元気にやっているか、困っていることはないか、そう思うのは当然よ」

「なんか、ごめんね」

「謝る必要なんてないわよ。ケンカくらいよくあることだもの。ただの意地の張り合いになる前に止めなさいね」

 うん、と素直に頷くことが出来た。

 帰ったらすぐに陸に謝って、貰った浴衣を見せて来週は二人で一緒に来よう。

 麻衣は帰って来てようやく笑顔を見せることが出来た。

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