2010、夏祭り:-one-18


 昼食は昨夜の残りの天ぷらを使って天丼を食べた。

「麻衣、スイカ持って行ったら?」

「うーん……、持って行きたいけど、こんなに持って帰れないよ」

 昼食を終えて帰り支度をしていた麻衣は用意するにつれ表情を曇らせた。

 いつもは車だから気にしたこともなかったけれど、食料品や日用品、それに浴衣という大荷物になってしまった。

「ねぇ、お父ちゃん。送っててくれない?」

「だからお前は可愛くないっていうんだ」

「なにが?」

 美紀の淹れたコーヒーを飲みながら、二人の様子を眺めていた竜之介が電話を掛ける仕草をした。

「迎えに来て、一言だろうが」

「そ、れは……」

 それが素直に出来ていたら、きっとこんなことになっていないと思った。

(でも、これがきっかけになるかもしれないし……)

 悩みながら携帯に手を伸ばすと家のチャイムが鳴った。

 麻衣は思わず玄関へ飛び出しそうになった足を止めて視線を荷物に下ろした。

「まったく、この子は……」

 仕方ないわねと笑いながら玄関へ向かう美紀の後ろ姿をちらりと見て麻衣は唇を尖らせる。

 竜之介もまた何か言いたそうな顔をしているが、麻衣は気付かないフリをして荷物に手を伸ばした。

「あらー。ちょうど良かったわ。麻衣が帰るところなのよー」

 玄関から聞こえてくる美紀のどこか楽しそうな声、それから明らかに美紀ではない笑い声が聞こえて来た。

(もしかして、陸……迎えに来てくれたの?)

 ドタドタと大きな足音が近付いて来て、麻衣はドキドキしながら顔を上げた。

「竜ちゃん、お客さま」

 先に戻ってきた美紀の言葉に期待は消えた、でも姿を現した人物に驚かされた。

「奏ちゃん!?」

 白いTシャツにジーンズと爽やかな格好とは対照的に、無精ひげにゆるくパーマのかかった髪を後ろで一括り、怪しげな色のサングラスをかけている。

「よお、鼻ペチャー」

「誰が鼻ペチャよ!」

 よく見知った顔、高校を卒業してから暫く会っていなかったから、よく見知ったというのはおかしいかもしれないけれど、隣の家の幼なじみは、何年経っても幼なじみに変わりはない。

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