2010、夏祭り:-one-14
何か言おうとする陸を遮るように麻衣は続けて言った。
「私……手切れ金なんかなくても、陸に迷惑かけるようなことしないから」
陸と……陸が愛する人の邪魔なんてしない、悲しいけれど陸には誰より幸せになって欲しい。
(本当は自分と……)
涙が込み上げてくるけれど、こんな時に泣いて困らせたくないと、必死に堪えていると陸が大きな声を出した。
「何!? 今、何て言った?」
目を剥いて身を乗り出す陸に涙も引っ込んでしまった麻衣は答えた。
「手……切れ、金?」
「手切れ金!? どーしてそうなんの! 麻衣、もしかして俺と別れたいとか思ってんの???」
「思ってないよ! って、そう思ってるのは陸じゃないの? こんな大金……黙って受け取ってなんて、私……愛人みたいじゃない」
涙は止まっても震えてしまう声に麻衣はだんだん俯いてしまった。
陸はフーッと溜息を吐いて立ち上がると、麻衣の横に立って頭を抱き寄せた。
優しく頭を抱き寄せられ、頬が温かい胸に触れる。
「麻衣、ドラマの見すぎ。愛している人の略って意味なら麻衣は愛人だけど、そういう意味じゃないんだよね。だいたい何で俺が別れたいなんて言わなくちゃいけないの? ビックリさせないでよ」
陸が頭のてっぺんにキスして離れると、麻衣はようやく顔を上げた。
「じゃあ、あのお金は何なの?」
「麻衣に使って貰うお金」
当たり前のように答える陸に麻衣の頭の中には?マークしか浮かばない。
ここでの生活費は陸から手渡されるけれど、さすがにこの金額はありえない。
自分の収入と不釣合いなプレゼントはされることがあるけれど、こんな風に現金を渡されたことは一度もなかった。
「使う……って」
こんな大金の使い道が浮かばない、そもそも目にするのも初めてなのだ。
「これを金曜日と土曜日で使い切って欲しい。もちろん足りなかったらすぐに用意する」
「だから! 何に使うの?」
肝心な目的を口にしない陸に、麻衣は小さな疑惑を抱き始めた。
こういう時の陸は決まってとんでもないことを企んでいることが多い、言いたくなさそうに視線を逸らすあたりますます怪しかった。
「だいたい、こんな大金を二日で使い切るだなんて。一体どこで使うっていうの?」
もしかしたら入手経路が人に言えないような所からで、処分に困った陸が頼んでいるのかもしれないと思ったが、これこそドラマの見すぎだと言われかねないと胸の奥へとしまった。
「店」
ただ一言、そうポツリと答えた陸、麻衣は嫌な予感が的中したことに、喜ぶよりも出来ればその後の言葉を聞きたくないと思った。
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