2010、夏祭り:-one-3


「一緒にいないと泣いちゃうのは陸でしょ?」

 くすりと笑う麻衣の思惑を裏切るように、陸はぎゅぅと抱き着いて頷いた。

「そっ。泣いちゃうから側にいてよ」

 店では絶対に見せない表情と、麻衣以外の前では出さない甘えた声。

 先に降参と手を上げたのは麻衣だった。

「もう、分かった! 何やっても陸に勝てっこないんだから」

 力を抜いた麻衣の身体の重みが心地良く圧し掛かってくる。

 本当に勝てないのは自分の方、麻衣を失って受けるダメージはとても想像出来ない。

 麻衣が腕の中で居心地の良い場所を探すみたいにごそごそと動く間、陸はミネラルウォーターをボトル半分ほどまで空けた。

 濡れた口元を手の甲で拭っていると、ようやく居場所が決まったらしい麻衣が「あっ」と小さな声を上げた。

「どうしたの?」

「あのね……」

 少し迷った素振りを見せたけれど、麻衣は話を始めた。

「再来週の週末に地元でお祭りがあるの。こっちみたいにすごくはないけど、花火も上がるし屋台もたくさん出て、地元の方では割と有名なお祭りなの」

「へぇ」

 八月に入ってから花火大会も夏祭りも本格的に始まり、週末ごとに各地で開催されて浴衣姿の女の子を見ることも多かった。

「それでね……陸と一緒に行きたいなぁ、って思ってるんだけど……いい?」

 腕の中の彼女に上目遣いでそんなことを言われて「嫌だ」という男がいるなら見てみたい。

 そうじゃなくても話を聞いた瞬間に一緒に行きたいと思ったくらいなのに、麻衣はいつになったら俺のことを理解してくれるんだろう。

「そういう時は“いい?”じゃなくて、行きたいだけでいいんだってば」

「だって……都合悪いかもしれないじゃない」

「何、言ってるの。日曜は麻衣だけのためにいつだって予定空いてるの。っていうか日曜の俺は全部麻衣のもの」

「あ、そっか。日曜以外はみんなの陸だもんね」

 さっきの仕返しのつもりだろうか、そんなことを言って麻衣は笑う。

「こら……可愛くないことを言う口はどれだー」

 陸は麻衣を腕に抱いたままベッドに転がると、麻衣の身体を組み敷いて唇を指で摘んだ。

「この口だなー。悪いお口にはお仕置きが必要だなー」

「うーうーううー」

 唇を摘まれてもがく麻衣が目で訴えかけてくるけれど、その目が笑っていることに陸は気が付いていた。

「可愛いことが言えるようになるまで塞いじゃおうかな」

 唇から指を離した陸は代わりに自分の唇を重ねた。

 何か言おうとした麻衣の言葉も吸い取って、深く重ねた唇を割って舌を伸ばす。

 ミネラルウォーターを飲んで冷えていた舌に麻衣の舌は火傷しそうなほど熱く感じた。

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