2010、夏祭り:-one-2
髪を拭くの止めた麻衣が布団の上から陸の手を叩く。
「穿かせてくれなかったのは陸じゃなかったっけ?」
少しだけ拗ねた口調に思わず笑ってしまう。
どれだけ頼んでも一緒に風呂に入ってくれない麻衣へ、譲歩の条件として風呂上りは自分のパジャマの上着だけと提示した。
しばらく悩んだ末に不承不承頷いた麻衣に、落胆はしたけれどこれはこれでいい。
(布団掛けちゃってるのは減点だけど)
布団の中から手を引き抜いた陸はよく冷えている発砲水で喉を潤して、麻衣の膝の上に置かれた雑誌を取り上げた。
「お待たせ」
チュッと音を立ててキスをする。
すぐに唇を離すと麻衣が意外そうな顔を見せる、可愛くてもう一度キスしたくなったけれど、足の間に麻衣の身体に引き寄せた。
部屋の電気をリモコンで絞りベッドサイドの明かりを点ける。
部屋が薄暗くなったからか、麻衣の身体がそっともたれかかってきた。
鼻先を甘いシャンプーの香りがくすぐり、何もしていないのに身体の奥に熱が生まれる。
「もう、寝るの?」
胸に頭を預ける麻衣に振り返りながら聞かれ陸は首を横に振った。
日付が変わるまでまだ二時間以上もある、いつもならまだまだ宵の口なのだから、麻衣と二人きりの夜を寝てしまうのはもったいない。
「麻衣は眠い?」
「ううん」
「じゃあ、こうやって話しよ。それとも別のことする?」
耳に唇を寄せて囁くと、麻衣はため息にも似た吐息をもらし、腰に回した手を上から握って、さらに手の甲をギュッと抓った。
「さっきしたでしょ?」
「俺は何も言ってないのに、何のことか分かったんだ。麻衣のエッチ」
「もうっ!」
つい意地悪心を出したら、麻衣が唇を尖らせて腕の中から逃げようとする。
腕が柔らかい身体に食い込む感触が気持ち良くて、麻衣がもがいて暴れるとさらに腕に力を入れた。
「麻ー衣、どこ行くの?」
「陸が意地悪するから、テレビ見てくるの」
拗ねた口調がまるで子供みたいだ。
これで八歳年上だっていうんだから信じられない。
麻衣の身体の前で手を組むと陸は肩に顔を乗せて拗ねる横顔にキスをした。
「俺と一緒にいてくれないの?」
小さく呟けば動きを止めた麻衣が振り返って何か言いたそうに睨んでくる。
そんな表情も可愛いと思ってしまうのは、きっと惚れた欲目というやつだろう。
陸がもう一度唇に触れるだけのキスをすると、ようやく身体の力を抜いた麻衣が笑顔を見せた。
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