2010、夏祭り:-one-1


 季節が夏に入って焼けた肌に、蜂蜜色の髪から垂れた雫が滑っていく。

 フットライトだけが灯る廊下、綺麗に片付けられた真っ暗なキッチン、冷蔵庫を開けてオレンジ色の明かりに照らされたのは整った顔立ち。

「暑っち……、やっぱ全室空調じゃなきゃダメだって」

 自分一人なら間違いなく部屋中のエアコンのスイッチを入れている。

 ――夏生まれなのに私より暑いのが苦手ってどういうこと?

 笑いながらそう言ったのは同棲中の彼女、いや……未来の奥さんだ。

 陸は上半身裸にパジャマのズボンだけという格好で、濡れた髪を無造作にかき上げて、冷蔵庫からグリーンのボトルに入った発砲水を二本取り出した。

 フローリングの床をペタペタと裸足で歩き、ドアを開けると、ほどよく冷えた空気が火照った肌を心地良く包み込んだ。

 部屋の大部分を占める大きなベッドには、一足先に風呂から上がった麻衣が雑誌を読んでいる。

 パジャマ姿、肩より少し長い髪をクリップでまとめ、部屋に入るとすぐに顔を上げてふわりと微笑んだ。

 そういえば店の誰かに言われたんだよな。

 ――一緒に住んだら飽きないっすか?

 そんなことを考えたこともなくて、あの時は心底驚いた、麻衣と一緒にいて飽きるなんてありえない。

 本当なら仕事中だって離れていたくないと思う、出来れば麻衣には仕事を辞めてずっと部屋にいて欲しいとさえ思う。

 ただ……最近になって思うのは、一人でいる時間があって、仲間と仕事をしている時間があって、だからこそ週に一度の二人でゆっくり過ごす時間に、麻衣のことをより愛しいと感じるようになった。

 きっとそれは麻衣も同じで、普段よりも少しだけ甘えた仕草や声が、二人で過ごす時間を一層甘く演出してくれる。

(まだまだ、可愛い麻衣を見たいっ)

 夜は始まったばかりと、陸は勢いよくベッドへと飛び乗った。

「もうっ、陸ー!」

 ベッドのスプリングが大きく軋む音、間髪入れず飛んだ麻衣の咎める声、だが陸は気にする素振りも見せず、持っていた発砲水のボトルをベッドサイドに置いた。

 店が定休日の日曜の夜、いつものように少し早めの夕食は、陸のリクエストで近くの韓国料理店で冷麺。

 休日でも早く起きて二人でスーパーで買い物、昼は自宅で簡単に済ませて、昼食の後は買い物帰りに借りたDVDを見ながらゆっくり過ごす。

 特別なことはしない、でもそれが幸せな証だと思っている。

 寝るにはまだまだ早い時間にベッドへと潜り込んだ二人はたっぷりかいた汗を流し終えた所だった。

「髪、ちゃんと拭かないと風邪引くでしょ」

 タオルで無造作に拭いただけの陸の髪に、麻衣は持っていたタオルを伸ばして包み込む。

 くすぐったそうに首を振りながら陸は膝でにじり寄った。

「麻衣こそ、ちゃんとズボン穿かないと風邪引いちゃうよ?」

 掛け布団の中へと手を伸ばした陸は、しっとりと吸いつくような手触りの麻衣の足を撫でた。

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