2010、夏祭り:意地悪な恋26
親しい人って感じだから服のデリバリーじゃない? いや……本当にそうだとは思ってないけれど。
「は!? どういう意味だ!」
和真の声が突然大きくなった。
驚いて跳ね上がった心臓にかのこは胸に手を当てて息を吐くと、ガサッと音がしたのを聞いた。
え、なに……誰かいる?
気のせいかと思ったけれど、再びガサッと聞こえて来た音は少しずつ大きくなって近づいて来る。
「か、和真……」
かのこは電話をしている和真の側へとすり寄ってジャケットの裾を引っ張った。
電話をしたまま視線を向けた和真にかのこは音をする方を指差した。
「何か音がする……」
ガサガサという音が大きくなってきて、和真もすぐに気が付いたらしく、耳から携帯を離して怪訝な顔をした。
「下がってろ」
かのこは和真の背中に庇われるように立ち、気を張り詰めている和真の後ろから顔をそっと出した。
「おー、いたいたー」
この緊迫とした空気の中、のんびりとした声は聞き覚えのあるものだった。
その声の主が誰だったのか思い出すよりも早くその人物は姿を現した。
「真尋!!!」
「如月本部長!?」
驚く二人の声が重なると、目の前に現れたその人、和真の兄・真尋は満足そうに笑い足を止めた。
「ね、案内は必要ないって言ったでしょー?」
そして携帯片手に真尋の後ろから姿を現したのは、和真の双子の妹・初乃でかのこはさらに驚愕の声を上げた。
初乃の登場には驚かない和真は舌打ちをしながら電話を切ると、してやったりという顔で笑う初乃を睨みつけた。
「どうして真尋なんか連れて来た」
「違うわ、和真。連れて来たんじゃなくて、兄さまが連れて来てくれたのよ」
「二人で食事をしている時で良かったなぁ、和真。おかげですぐに駆け付けることが出来た。これも兄弟愛のなせる業だな。弟を思えばこそ、頼りになる兄に感謝しなさい」
「……ッ。そんなことはどうでもいいが……どうしてここにいると分かった。場所は説明してないはずだ」
「全地球測位システム。ニューヨーク帰りのお前にはglobal positioning systemの方が分かりやすいか、もっと分かりやすく言うと……」
「もういい、分かった」
得意気な真尋の説明を和真は低い声で遮ったが、かのこには何のことやらさっぱり理解出来なかった。
地球? 即位?測位? 一体何のこと?
「ただ何でお前が初乃をこんな所に呼び出したかまでは分からなかったわけだが……、ここに来てようやくその理由を理解した」
「真尋、黙ってろ」
「まったく三十過ぎているくせに、こんな場所で盛るとは我が弟ながら……」
「真尋ッ! いい加減にしろっ!」
まるで演説のようにとめどなく話す真尋に和真は掴みかかりそうな勢いで怒鳴りつけた。
かのこや初乃がビクリと身体を竦めるほどの大声に真尋は苦笑しながら首を竦めた。
「……はいはい。少々悪ノリが過ぎたかな。そんな怖い顔をするな、後ろの可愛い彼女が怯えているぞ」
かのこは怯えてはいなかったが、まったく状況を飲み込めずにいた。
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