2010、夏祭り:意地悪な恋24
和真のように頭の回転が速くないかのこは言われたことを整理しようとしたが、整理するより早く口を開いてしまった。
「ふ、服って……どういう、文句とか……え……和真、どこ行くの?」
「このままじゃどうしようもないだろう」
和真が指を差したのはもちろん着崩れたままの浴衣、確かにこのまま人前に出たら何があったのかと好奇の視線に晒されるのは間違いなかった。
少しだけまた落ち込むかのこに、和真はもう一度説明をした。
「代わりの服を買って来る。だから、お前はここで待ってろ」
あ……そっか、そういうことか。
浴衣が着られないから、代わりになる服を買って来てくれるというのだ。
確かにそれなら何の問題もなく、ようやく安堵したかのこは表情を緩めたが、すぐに目を見開いて和真に詰め寄った。
「ここで待ってるの!?」
「当たり前だろ。その格好で不都合だから服を買いに行くんだぞ。少しくらい考えてからものを言え」
呆れたように言う和真だったが、かのこはまったく聞いていなかった。
「こんな所で一人で待ってるの!?」
今は和真が一緒にいてくれるから気にならないけれど、ここは外灯が1本しかない公園の中、遊歩道からも外れていて周りは樹が茂っている。
「嫌だっ」
かのこはしがみついていた手に力を込めた。
「おい……」
「こんな所で一人になるなんて絶対にやだっ」
駄々っ子のように首を横に振って「嫌だ」を繰り返す。
こんな場所に一人残されるくらいなら、たとえ知っている人に見られる可能性があったとしても、この格好で人の目に晒された方がいい。
もちろん……実際にそれを行動に移す勇気も度胸も持っていないけれど。
「じゃあ、どうするんだ。ずっとここにいるつもりか」
さすがの和真もお手上げとばかりに、ため息を吐いてしまった。
重苦しい沈黙が続く中、しがみついている手だけは離せないかのこは、遠くから聞こえる祭りの音と大きく響く花火の音を聞きながら反省をしていた。
ワガママ言っちゃった罰だよね、和真が嫌だって言ったんだからそこで諦めれば良かった。
「かのこ、離せ」
ずっと黙っていた和真がかのこの腕に手を掛けながら声を掛けた。
かのこは下唇を噛んだままジッと和真の顔を見上げた。
もしこの手を離して、そのまま和真にダッシュでもされた困る。
絶対に離さないという意思を込めて半ば睨み付けていると、和真は小さく笑って額を小突いた。
「少し離れるだけだ。お前から見える場所にいるから安心しろ」
「何……するの?」
和真の言葉を疑っているわけじゃないけれど、素直に手を離すことは出来ず聞き返すと和真が少しだけ嫌そうな表情を作る。
「不本意だがな。四の五の言ってられない」
「どういう意味?」
結局どうするのか説明はしてくれず、少し離れた和真は電話を掛け始めた。
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