2010、夏祭り:意地悪な恋23
「どうしよう、和真ぁ」
今にも泣き出しそうな声で呼んだら、和真が怪訝な顔をしながらも側まで来てくれた。
「どうした、具合が悪いのか?」
気遣うような視線でかのこの身体を上から下まで視線を滑らせ、眉根を寄せたかのこの顔をもう一度覗き込んだ。
「どこか痛むのか?」
「違……そうじゃなくて、あのね……浴衣、着られないの」
「は? 何だって?」
「浴衣、着られないの!」
理解出来ないという顔で聞き返され、切羽詰っているかのこは思わず叫んだ。
勢いに圧倒されたのか和真は一瞬たじろいで、それから少し視線を泳がせるとゆっくりと視線をかのこに戻した。
「じゃあ、どうやって着たんだ」
「お母さんに……」
和真は何か言いたそうに口を開いたけれど、その言葉を飲み込んでその場で落ち着き無く動いている。
もう、最悪……。
落ち着きのない和真から苛立ちが伝わってきて、余計にかのこを落ち込ませていく。
「見よう見真似で何とか出来るだろ。帯を締めるだけだぞ!」
声を荒げられてかのこはびくりと身体を震わせた。
和真の言う通りだと思った、ただ帯を締めるだけなのに、たったそれだけのことなのに出来ない。
「ご、めんなさ……い」
申し訳ない気持ちと恥ずかしい気持ちで消え入りそうな声で謝ると和真の小さな舌打ちが聞こえた。
怒ってる、泣いたらきっともっと怒るから泣いちゃいけない。
眉間にギュッと皺を寄せ、溢れ出る涙を必死に堪えようとするかのこだったが、努力の甲斐もなく瞳には涙が盛り上がっていった。
瞬きをしたら涙が頬を伝ってしまいそうで、目に力を入れていたかのこはぼやける視界の中で和真が動くのを見た。
「責めたわけじゃない。ったく……お前はいつからそんなに泣き虫になったんだ?」
和真の腕が目元を覆うように押し当てられ、麻のジャケットが零れ落ちる寸前だった涙を吸い取った。
こんなことをしてても状況は変わらないと分かっていても、腕に手を回してそのまま顔をギュッと押し付けた。
「出来ないものをごちゃごちゃ言っても仕方ない。かのこ、少し待ってろ」
「へ?」
かのこは驚いて顔を上げた。
気持ちの切り替えの早さは前から知っていたけれど、苛立ちを微塵も見せず少しだけ仕事中に見せる表情をしていた。
「まだそれほど遅い時間じゃないし。近くにショッピングセンターがあったからそこで服を見繕ってくる」
「え……ふ、服?」
「間に合わせだからな、気に入らなくても文句言うなよ」
その場から立ち去ろうとする和真の言葉に、一度は手を離したかのこは再び和真の腕にしがみついた。
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