2010、夏祭り:意地悪な恋22
恋人同士のエッチはとてもロマンチックなもので、欲望を満たすだけではないからもちろん甘い余韻があるはずなのに……。
「かのこ、何か拭く物を持ってないか」
飛びそうになった意識をギリギリで繋ぎ止め、全力疾走した後のように乱れた呼吸を整えていたかのこは、和真の腕に支えられていたが今の一言で崩れ落ちそうになった。
エッチだけの関係じゃないって分かってる、だからこんなことで文句なんて言いたくないけれど、さすがにこれはないと思う。
「なければ……お前が口で綺麗にしてくれても構わないが?」
面白がっている和真の声。
「もうっ!!」
何か一言言い返そうと思って振り返ったけれど、自分を見ている和真の顔が想像以上に優しいことに言葉が出ない。
それでもジトっと恨めしい視線を送ると、和真が手を伸ばして頬に触れた。
「やってくれるのか? えらく積極的だな。ま、そういうのも悪くない」
最初の不機嫌さが嘘のように上機嫌な和真が笑う。
「しませんっ!」
手が触れていない方へとプイッと顔をそむけると、和真が声を立てて笑った。
こんな風に突っぱねても不機嫌にもならないことが、本当に和真の機嫌が良いということを証明している。
かのこは複雑な想いを抱きながら地面に散らばった荷物を探った。
ハンカチと確かポケットティッシュも持って来たはずと、携帯や財布を拾いバッグに入れながら荷物を順番に拾っていく。
「あ、あった! 和真、はい……」
ポケットティッシュを拾い上げて、振り返ったかのこはニヤニヤ笑う和真と目が合った。
「いい眺めだ」
低く笑った和真の言葉にハッとした。
視線の向けられている先を追い掛けて、何を言おうとしているのか分かるとカッとなった。
「和真のバカっ! 変態ッ!!」
持っていたポケットティッシュを投げつけて慌てて裾を下ろすと、難なく受けとめた和真がそれをヒラヒラと振りながら言った。
「その変態に抱かれて喜ぶお前は何だろうな?」
返す言葉もなく唇を尖らせたかのこに和真は勝ち誇った笑みを浮かべた。
身支度を整えた和真がタバコに火を点けるのを横目で見ていたかのこは大事なことに気が付いた。
簡単に身体を綺麗にして下着を身に着けたまでは良かった。
ど、どうしよう……浴衣ぐちゃぐちゃ。
着崩れているというより、身体に浴衣が巻きついていると言った方が正しいかもしれない。
大きく開いた胸元、いつの間に緩んだのか帯はかろうじて腰に巻きついている程度。
「くそ……汗をかいた。かのこ、帰るぞ。早く支度をしろ」
声を掛けられても手を動かすことが出来ず、かのこは泣きそうな顔をして和真を見た。
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