2010、夏祭り:意地悪な恋15
目を閉じてキスをしていると此処がいつもの和真の部屋だと錯覚しそうになる。
深く絡め取られる舌、呼吸が上手く出来ず、酸欠で意識が遠のきそうになった耳に、大地を響かせて上がる花火の音。
足元を震わすその音が外だということを思い出させた。
「か……ずま、待って」
強く抱きしめられ身動きすらもままならないけれど、どうにか片腕を自由にさせて和真のシャツを掴んだ。
「ここ……外、だから。もう、これ以上は……」
ようやく唇が離れた口元は溢れた唾液が伝い、薄暗い外灯に照らされて光っている。
かのこは濡れた口元を手でソッと拭い、和真の腕の中から抜け出そうとしたが、和真の腕は決してそれを許そうとはしなかった。
「お前が誰の物なのか、もう一度きっちり教え込む必要がある」
「……か、和真?」
不穏な空気を察知したかのこが身体を強張らせた。
和真と付き合うようになってから、その手の察知能力は飛躍的に向上した、だがそれを回避する能力は悲しいほど壊滅的でもある。
「その口から他の男がいい、なんて二度と言えないようにしてやる」
「だ……から、あれは! そういう意味じゃなくて……」
「それに、行きずりの男の前で泣くなんて言語道断。一から躾け直すから覚悟しろ」
かのこは自分の言葉にはまったく聞く耳を持たない和真の言動に青ざめた。
ここは外で少し歩けば大勢の人が楽しんでいる夏祭りの会場、あの春の日の夜とまったく同じ状況であることに、自分の学習能力の無さを嘆いた。
ううん、嘆いてる場合じゃない!
あの頃とは違う、簡単に懐柔されることはない、嫌なことは嫌とハッキリ言えるはず。
付き合い始めた頃は無理だったけれど、少しずつ和真に対して意見することが出来るようになっていた、おまけに今日は和真の口から謝罪の言葉も聞いた。
対等……までは程遠くても、少しは近付けている、と思いたかった。
「和真、あの……ここじゃなくて、その……」
いざとなるとしどろもどろになってしまう、そんな自分を叱咤するより早く、和真の手に顎を掴まれて上を向かされた。
欲情に染まった瞳に捕まった途端、まるで魔法でも掛けられたみたいに、身体が動かなくなった。
「此処で、咥えろ」
低く艶のある声に全身の血がドクンと反応をした。
短い言葉で命令されたこと、それを理解するのに時間は要らなかった。
戸惑うばかりで返事を出来ずにいたかのこは、不意に頭を強く押さえつけられると、立っていることが出来ず膝を付いた。
まさか……本当にここで、するの?
信じられない思いで押さえつけられた頭を持ち上げれば、和真はジッと見下ろしたまま再び口を開いた。
「咥えろよ。出来ない、とは言わせない」
反論の余地はない、分かっていて反発しようとする心が口を開かせた……が、唇は開かれただけで声を発することはなかった。
こんなのおかしいのに、こんな風にされたら怒っていいはずなのに、手は自分の意思に反して顔の前にあるジッパーへと伸びた。
パンツの上からでも分かる膨らみ、その場所へと手を伸ばし、ジッパーを指で引き下ろすかのこは、ため息にも似た吐息を零した。
屈辱的なことを強制されているはずなのに、身体は信じられないほど熱くなっている。
クリアだったはずの頭はいつの間にか靄が掛かったみたいにボンヤリしていた。
「上手に出来たら、たっぷり誉めてやるよ」
誉められたいなら上手にやれ、と言われているだけなのに、腰の辺りが甘く疼くのを感じた。
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