2010、夏祭り:意地悪な恋11
もしかして、怖い人じゃない?
恐怖が少しずつ薄れていく中で、まだ不安を拭えずにいると、男性はそれを裏付けるように笑みを浮かべた。
「大丈夫……じゃないみたいだね。かなり怖い思いをさせてしまったみたいだ」
「だ、大丈……ぶ、っ……ううっ」
まるで父親のような優しい話し方にかのこの緊張は解かれ、安堵感で両方の目から溢れた涙が浴衣を濡らしていく。
子供のように手の甲で涙を拭っていたかのこは目の前に差し出されたハンカチに顔を上げた。
「擦ったらダメだよ。これを使いなさい」
そう言われてもすぐに手を出せずに戸惑っていたかのこに、男性がハンカチを頬に当ててそのまま握らせた。
子供みたいで恥ずかしいと思ったけれど、男性の好意を素直に受け取った。
太陽の匂いのするハンカチは温かくて、すぐに涙を吸い取っていく。
ハンカチを握り締めたまま頭を下げると、男性は小さく頷いてから後ろを振り返った。
「アキラー、こっち来い」
「竜、さん。俺……」
さっき絡んできた男はすっかり酔いが醒めてしまったのか、意気消沈した様子でうな垂れて男性の前に立った。
かのこに向けていた優しい眼差しではなく、厳しい視線に男はますます体を小さくさせた。
「お前がすることは、分かってるな?」
「す……みませんでした」
「謝るのは俺じゃない」
男性の低い声に男はかのこの前に立つと深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にして、顔を上げた男は男性の顔色を窺うように不安そうな顔をしている。
「今日はもう飲むな、分かったな?」
「はい」
頭をポンポンと叩かれホッとしたのか、男は子供みたいな笑顔を見せて仲間達の元へと戻って行った。
この人達がいったいどんな集団なのか、もっと気にするべきだと思うのに、目の前に立つ男性の持つ雰囲気がそんな気持ちを払拭させてしまう。
「あの……ありがとうございます」
助けて貰った上に子供みたいに泣いてしまった所を見せて気恥ずかしさもある。
泣いたせいだけではない頬の火照りを手の甲で鎮めようとしていると、男性はチラリと後ろにいる若い集団を見て、指でこめかみの辺りを掻きながら笑った。
「いやいや。元はといえばうちの奴が迷惑かけたことだからね。それよりもこんな場所に女の子一人でいるのはあまり良いことではないよ。駅まで送ってあげよう、と思っていたんだが……。どうやらその心配はいらないようだ」
男性の視線が自分を通り過ぎていくと、かのこは追い掛けるように振り返った。
数メートル離れた場所、行き交う人の向こうからジッとこっちを見ている人がいる。
「か……ずま?」
「少し前からいたよ。物凄い形相でこっちを睨んでいるのに、近付こうとしない、彼はすごくプライドが高いのかな」
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