2010、夏祭り:意地悪な恋8
浴衣を着せてもらっている間も、電車に乗っている間も、携帯ばかりが気になって仕方なかった。
鳴る度にドキッとした後にガッカリすることを繰り返し、とうとう夏祭りの会場へと来てしまった。
明利の見てて痛々しいという言葉を思い出して、気付かないうちに丸めていた背中を伸ばした。
恥ずかしいことなんて何もない、一人で夏祭りくらい平気だもの。
両側に露店を冷やかしながら一人で歩いていても、気が付けば足が止まりそうになっていた。
恥ずかしくないけれど、寂しくてたまらない。
地元の夏祭りではなかったけれど、高校生の時に一度だけ来たことがあった、その時は女の子ばかり6人で来て、何をしても楽しくて仕方なかったことを憶えている。
ただ……夜空に咲いた大輪の花を見上げながら、今度来る時は隣に好きな人がいたらいいな、と考えていた。
寂しいよ、和真。こんなことなら来なければ良かった。
もっと素直にごめんなさいって言えたら、今頃は和真と一緒にDVDを見たり、お気に入りのレストランへ食事に行っていたかもしれない。
帰ろう、帰ったら和真に連絡しよう、すごく怒っているかもしれないけれど、やっぱり和真の側にいたい。
回り右をして来た道を引き返そうとしたかのこは、突然響いた大きな音に足を止めた。
周りを行き交う人達も同じように足を止めて、打ち上げられた花火に歓声を上げた。
たった今帰ろうと決めたけれど、心を震わせるような夏の華に、せっかくだから花火だけでも見て帰ろうと考え直す。
どこかもう少し人の少ない場所を探そうと身体の向きを変えたかのこは、振り向きざまに誰かにぶつかってしまいよろめいた。
「大丈夫?」
「す、すみません……」
転びそうなだったかのこは背中を支えてくれた腕のおかげでどうにか体勢を立て直すことが出来た。
お礼を言おうと顔を上げたかのこは、自分を支えてくれている男を見て驚いた。
こういう人のことって何て言うんだっけ、確か……ギャル男?
そんな言葉をどこかで聞いたことあると思い出しながら、浴衣を不自然なほど肌蹴させた男の人に視線は釘付けになった。
「俺も前を見てなかったからさ、ごめんね。でもこんな可愛い子とぶつかったのはラッキーだったな」
言われ慣れていない言葉に背筋がゾワゾワしたけれど、結構カッコいい人にそう言われて悪い気はしなかった。
「あ……私もボンヤリしてたから、本当にごめんなさい」
余所行きの声で謝ってその場を離れようとしたけれど、かのこの背中に回された男の手は肩へと置かれ直された。
あれ……なんかこれってマズイ状況?
前にもおなじようなことがあったような気がして、それはいつのことだったか思い出そうとしているうちに、肩を抱く男が不自然なほど顔を近付けて来た。
「こんな可愛い浴衣着てるのに、一人でどうしたの? もしかして彼氏とケンカでもしちゃった? なんか寂しそうな顔してるし、なんだか放っておけないな」
近付く男の息が酒臭いことに気が付いたかのこは悪寒に身体を震わせた。
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