2010、夏祭り:意地悪な恋6


 和真の気持ちを試すようで怖い、怖いと思うのは未だに和真の隣に立つことへの不安を拭いきれないからかもしれない。

 目を伏せたかのこを見て、夏目は元気づけるように肩を叩いた。

「心配しなくても、俺が思うに……彼氏は菊ちゃんにベタ惚れだと思うよ。だから菊ちゃんが思っているような展開にはならない。それに……」

「それに?」

「男なんて恋の奴隷。何だかんだ言ったって、結局は好きな子の為なら何でも出来ちゃうから」

「それは……」

 夏目さんだけじゃないかと思う。

 和真に限ってそれはない、彼はいつでも世界の中心にいるような人で、いつでも自分を支配する王のような存在。

 その彼が自分の前に跪く姿は想像もつかない。

 頭の中では否定をしても、夏目が自分を元気づけるために言ったと思うと、素直に喜ぶことが出来た。

 これ以上この場の空気を重くすることが嫌でかのこは笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます。夏目さんは彼女の為に何でもしちゃうんですか?」

 強引に話の矛先を変えたせいか、二人が微妙に困った笑顔になったけれど、察しの良いさくらがかのこの言葉を後押しして、それを受けた夏目がニヤリと笑った。

「俺かー? 俺なんて言いなり」

「えー夏目さんの彼女ってそんなにワガママなんですか?」

「ワガママではないけどなぁ。アイツの願いは何でも俺しか叶えられないようになりたいから、何でもしてやりたいってのはあるかな」

「確かにそういう男はいいかも。私のために尽くしてすべてを捧げる男。使える」

 女王様気質はどうやら真帆だけではなかったらしい。

 真剣な顔をしているさくらの言葉はどうも冗談に聞こえず、かのこは迷わず冷静に突っ込んだ。

「さくら先輩、そうじゃないと思います。でもいいなぁ、私も夏目さんみたいな彼氏が欲しいですっ」

「おいおい、菊ちゃん……そんなの彼氏に聞かれたらどうすんだ?」

「大丈夫です! 聞かれる心配はないですからっ」

 そう思っているのは自分だけ、ということにかのこは気付くことはなかった。

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