2010、夏祭り:意地悪な恋5
みつ豆を受け取りながらその名前にドキッとする。
そうなんだよね……仕事中は仕事バージョンだから当然だけど、普段もあんな態度を取るくせに驚くほど気遣いが細やか。
何気ない会話の中で言った言葉を覚えていてそれを形にしてくれる。
例えば買い物の途中、気になって足を止めて見ていた物を後になって渡されたり、飲食店を紹介する番組を見ている時に、感想を言えば後日その店に連れて行ってくれる。
その時はまったく興味のない顔をして、くだらないと鼻で笑うこともあるくせに、後からそんなサプライズをされる度、毎回毎回嬉しくてますます好きになってしまう。
それに……いつもされるエッチな意地悪も、
物に釣られてるわけじゃない、それは断言出来る。
優しい所を知っているから、理由はそれだけだと思っていたけれど、最近はそれだけじゃない気がして困る。
「菊ちゃん、どうした? 元気がないぞ」
「あ……いえ」
椅子を引っ張って来た夏目が背もたれに手を乗せもたれたままテーブルをトントンと叩いた。
ただ考え事をしていただけ、と首を振るかのこに代わって、さっそくみつ豆を食べていたさくらがスプーンを振り回しながら答えた。
「彼氏を怒らせたらしいですよ。夏祭りに誘ったのに断られて、逆ギレした菊ちゃんがまさかの浮気宣言!」
「さくら先輩っ!!!」
「おお……やるねぇ、菊ちゃん」
「夏目さんまで! 違います! 浮気じゃなくて弟と一緒に行くことにしただけです」
「でも逆ギレはしたんだ?」
ニコニコとした明るい笑顔を向けられてかのこは黙り込んだ。
そう……拗ねてるだけ、自分が誘えば和真は絶対に断らないと思っていた、だからこそ断られたショックは想像以上。
もしかしたら後で嬉しいサプライズがあるかもしれないとどこかで期待している自分もいる。
でも今回は少し違うような気もしていた。
「ま、たまにはいいんじゃない?」
夏目の口から出た言葉にかのこは驚きを隠せずにいると、その反応を見た夏目がまた少し笑った。
「彼氏、少しくらいヤキモキさせちゃえば? 何だかんだ言っても、結局は彼女の言うことを聞いちゃったりするかもだよ」
「でも、それは……」
かなり大きな賭けだと思った。
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