2010、夏祭り:意地悪な恋3
確かにスタイルに自信があるわけじゃないけれど、出てる部分はそれなりに出てるし、括れている部分もそれなりに括れている。
外国の方のように悩殺出来るようなボディは持っていないというだけ、日本人の一般的な体型なのだから着物が似合うのも当然で、でもどうしたってそれは褒め言葉には聞こえなかった。
「つい、カーッとなっちゃたんですよ」
「菊ちゃんって一見大人しそうだったりするけど、実はすごいやるタイプだよね。そのうち彼氏のこと、グーパンしたりしてー」
「いや……さすがにそれをしたら、色々とマズイことが起こりそう、です」
「まぁ、そうだろうね。さすがに殴れる相手じゃないよねぇ」
「さ、さくら先輩?」
まただ……また、思わせぶりな台詞にドキッとする。
表情はいつもと変わらない、大人しそうという言葉で言ったらよっぽどさくら先輩の方がぴったりだった。
白い肌、顎の下辺りで切り揃えられた綺麗な茶色の髪は艶々ストレート、少しぽってりした唇は口紅を塗る前はベビーピンク、可愛いを絵に描いたような人。
色々とギャップが大きすぎるさくらに、きわどい台詞ばかりを聞かされるかのこは、いつも冷や汗ばかりを掻かされていた。
「いやいや、なんでもない。で……カーッとなった勢いで彼氏に何て言っちゃったわけ?」
「二度と誘いません! 夏祭りはあっくんと行くので結構ですっ! ……って」
「なに、浮気宣言? やるねぇ、菊ちゃん」
「違います。三つ年下の弟です」
かのこはハァーと深いため息を零す。
自業自得とはいえ、その後の機嫌の悪さといったら尋常ではなかった。
週の半ばということもあり元々自分のアパートに帰る予定だったけれど、店を出てから一言も口をきかない和真が運転する車は当然のようにアパートに横付けされた。
その時は自分もカッカしていたから、挨拶もそこそこに帰って来てしまったけれど、風呂に入ってようやく冷静になるととんでもないことを言ってしまった後悔で寝付けなかった。
だからといってこっちから折れる気もない。
前から思っていたけれど、いくら和真が優しくなくて口が悪いとしても、彼女に対してあの台詞はないと思う。
今回ばかりは絶対に謝らないと心に決めたけれど、それでも怒りを隠した上司の笑顔ほど恐ろしいものはなくて……。
「まー気持ちは分かるけどさ、意地張るのもほどほどにしておかないと、後で大変だよー」
もうすでに大変なんですよ、さくら先輩。
午後からも針の筵のようなあの席に座ってないといけないと思うと気が重い。
何とか理由を付けて午後から帰ってしまおうか、明日は終日外回りの如月課長、そしたら週末は夏祭りで週が明けた頃には機嫌も治っているかもしれない。
機嫌が治っている可能性はかなり低いけれど、その頃には間違いなく自分の方から謝っているに違いない。
多少……ううん、ひどいお仕置きは覚悟しないといけないだろうけど、最近はそれも慣れてきたし……って慣れるのもどうかと思うけど。
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