2010、夏祭り:意地悪な恋2
「それでね、聞いて下さいよぉ!」
コンビニで買ったパスタをフォークに巻きつけ、口に押し込んで噛むのもほどほどで、お茶で流し込んだかのこは、バンッとフォークを持った手をテーブルに叩き付けた。
昼休み、いつもなら真帆とさくらの三人で食事をするが、今日は真帆が外に出ているため二人で、パーテーションで区切られたミーティングルームにいた。
「聞いてるってば」
さくらはコンビニで買った新発売のプリンパンを頬張り、いちご牛乳を吸うと呆れたような視線をかのこに向けた。
「別に夏祭りくらいいいじゃない」
「何でですかぁ! さくら先輩は彼氏と夏祭り、行きたいと思わないんですか??」
「どうせ祭りに行くなら、特大トートバック片手に酸欠覚悟で夏の祭典に行くね」
「はい?」
かのこは首を傾げる。
相変わらずさくら先輩の言うことは半分くらい理解出来ない、ついでに言うと病的な甘党もかなり理解に苦しむ。
「いやいや、こっちの話。夏祭りなんて行って楽しい?」
「楽しいとか楽しくないとかじゃなくて、彼氏と一緒に行きたいんですっ!」
「そお? そこまで楽しいものでもなかったけどなぁ。人は多いし、外だから虫はいるし、履き慣れない下駄で足は痛いし、それに……万が一盛り上がっても、自分で着付け出来ないから帰りに困るしさー。うん、あれは最悪だったわ」
遠い目をするさくらがズルズルといちご牛乳を吸う姿に、かのこは最後のパスタを口に入れて恨めしい視線を送った。
一緒に行ったことある人はいい、自分も一度行けばそれで気が済むかもしれない、でも行ってみなくちゃ分からない。
かのこはティッシュで口を拭うと気を取り直して話の続きをした。
「私がとびきりの笑顔で『私の浴衣姿、見たくないですか?』って言ったら、何て言ったと思います?」
かのこの問いかけにさくらはうんざりした顔で首を横に振った。
「こうやってタバコを吸いながら、表情一つ変えずにこう言ったんですよ! 『ああ、確かにお前は着物体型だな』ですよ! 信じられます??」
声を低くしてその時の彼の仕草を真似して見せると、さくら先輩は声を立てて笑った。
「いやー菊ちゃんの彼、さすがだねー。あれだね、女を煽てて口説かなくても寄ってくるから正直な感想だろうね」
「どーいう意味ですか」
もう……さくら先輩って前から思ってたけど、やっぱりちょっと変で何だか少し鋭くてドキッとする。
確かに彼は女性を煽てて口説く必要なんてない人で、黙ってたって無視したって女性の方から近づいて来るタイプ。
どうしてそう思ったのか聞いてみたいけれど、直感が聞かないほうがいいと訴えてくる。
かのこは折れそうになる心をどうにか建て直し、さくらがチョココロネの袋を開けるのを見ながらため息を吐いた。
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