2010、夏祭り:意地悪な恋1
恋をすると少し欲張りで臆病になるということに気付かせてくれたのは、色んな初めてを教えてくれる七歳年上の恋人。
スーツが似合って、煙草を持つ指が細くて、仕事が出来て、笑顔が(仕事中は)優しくて、気配りが(仕事中は)出来る人。
(もーーーう!今日は一日機嫌良さそうにしてたのになんで!?)
最後に運ばれてきたデザートの桃のジェラートを口に運びながら、向かい側に座る恋人・如月和真へちらりと視線を送った。
デミタスカップを口に運ぶ仕草さえも、周りの恋人連れの女性の視線を釘付けにしてしまう。
そのことに本人が気付いているのか、確認したことはないけれど、視線を浴びることに慣れているのはきっと間違いない。
何をしていても仕草がスマートで大人っぽくて、例えば店員を呼ぶ時でも軽く手を上げる仕草も、他の人ならなんか気障っぽくて笑っちゃうのに、彼がすると嫌味じゃないどころかまるで映画のワンシーンみたいにカッコいい。
ただ……映画と少し違うのは、エスプレッソを飲む恋人の顔の眉間には、深い皺が刻まれているということ。
「どうしてもダメですか?」
「くどい」
何度目かのやり取りも同じ結果になり、かのこはスプーンを銜えたまま和真へと恨めしい視線を向ける。
視線に気付いているはずの和真が、気付かぬフリをして煙草に火を点けるのを見ながら何かいい案はないかと考える。
(たまには……っていうか、たまにしかしないお願いなんだから聞き入れてくれてもいいのに)
それはまだ年齢と彼氏いない歴が同じだった頃、「いつか彼氏が出来る」その日を夢見て、色々想像(妄想)していたことがある。
彼のアパートにお泊りして狭いシングルベッドで二人で寝るを初体験、これは超高級マンションのやたら広いベッドだけど叶った。
彼と手を繋いでデート、これは微妙だけどそれなりに出掛けてはいる。
彼に手作り料理、これは……これからの課題ということで。
他にも色々あるけれど、やっぱり欠かせないのは季節ごとのイベントで、今回和真にお願いしたのは一緒に夏祭りに行きたいという夢を叶えること。
学生だった頃、友達が可愛い浴衣を着て彼氏とデートしているのが羨ましくて仕方なかった。
友達同士で花火を見に行っても「浴衣なんて面倒だし」なんて言っていたけれど、本当はそんなの負け惜しみで、可愛い浴衣を着て男の子と歩きたかった。
夏祭りはクリスマスと同じくらい夢見ていたイベント、だからどうしても和真に「うん」と言わせたい。
かのこは決意を新たにすると身を乗り出して、再びお願いをするためにとびきりの笑顔を作った。
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