2010、夏祭り:君の隣28
テーブルの上に並べられた屋台の食べ物を見渡した。
(俺の好きなもんばっかだ……)
こういう所が貴俊なのだと思う。
探して走り回っている間、いったいどんな気持ちでいたのか、どういう気持ちで自分の好物ばかりを買ってくれたんだろう。
「祐二、食べないの?」
「た……べる」
(お前の方が嬉しそうな顔してるっておかしいだろ)
向かい側に座る貴俊に見つめられ、緊張しながら箸に手を伸ばす。
決して先に手を付けようとはしない貴俊はニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべている。
(あー、クソッ)
箸に伸ばした手を途中で止めた祐二はその手を真っ直ぐ貴俊の胸元へと向けた。
貴俊はズルイ。
何があっても離れないと言うけれど、こんな風に居心地の良い場所を与えられて、ダメになりそうなほど甘やかされて、離れられないのは自分の方だ。
居心地の良い場所を手放したくないからだなんて言い訳を口にしたって意味がない、だってこんな風に触れたいと思うのは目の前の相手しかいないのだから。
祐二は貴俊の胸元を掴むとグイッと引き寄せて乱暴に唇を重ねた。
勢いのあまり歯と歯がぶつかった間抜けなキスになったけれど、少しして貴俊の手に優しく後頭部を撫でられてさらにキスは甘くなる。
唇を離して至近距離の貴俊に蕩けそうな笑顔で微笑まれて、祐二は今日一番の羞恥にいたたまれず乱暴に豚串を掴んで被りついた。
「お……お駄賃だっ!」
「うん。ありがと」
「で、でも……カキ氷がないから、キ……キスまでだからなっ!」
「カキ氷なら、確かどこかに子供頃使ったカキ氷器があったはずだなぁ」
「……んぐっ」
立ち上がろうとした貴俊に慌てて口の中にあるものを飲み込んだ。
途中で痞えて胸の辺りを叩く祐二は貴俊に差し出されたお茶に手を伸ばす。
祐二は受け取って一口飲みながら貴俊が少し意地悪な笑みを浮かべたのを見逃さなかった。
(結局、貴俊の思うつぼじゃねぇか!)
「カキ氷はレインボー以外は認めねぇっ!!」
「そっかあ……。さすがにシロップが揃ってないからなぁ」
「残念だったな、フン」
「ほんと、残念だなぁ」
口ほど残念そうな顔をしていない貴俊は潰れて平らになったたこ焼きに手を伸ばす。
本当は残念に思っているのは自分も同じだということを決して気付かれてはいけない。
あくまで憮然とした表情を作ったまま豚串を頬張っている祐二に貴俊はわざとらしく声を上げた。
「祐二の大好きなベビーカステラも買ってあるからね。たくさん食べられるように、一番大きな袋にしたんだよ。」
「…………」
少しだけウソ臭い笑みに祐二はぎこちなく視線を逸らした。
この後にいったいどんなことが待っているのか考えると逃げ出したくなりそうで頭から追い出すことにした。
なるようにしかならないし、それに……貴俊がいるならきっといつもと変わらない、いつもと同じならそれでいい。
ようやく気持ちがスッキリしたところで、祐二は豚串を口に押し込むと次は何を食べようかと鼻歌を歌い始めた。
end
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