2010、夏祭り:君の隣27


 何の前触れもなく、眠っていた意識が覚醒した祐二はゆっくりと目を開けた。

 薄っすらと明るい部屋に視線だけ動かしてここが貴俊の家のリビングで、自分はソファの上で寝ていることに気が付いた。

 身に着けている服は少し大きめのTシャツ、それが貴俊の物だということは間違いないけれど、貴俊の姿はどこにもない。

(っていうか、俺なんでこんなとこで寝てるんだ……)

 ソファに手を付いて身体を起こそうとした祐二は経験のある激痛に短く呻き、同時に寝ぼけていた頭には目を覚ます前の出来事が蘇った。

「最悪、だ」

 まるで夢から醒めたような気分だった。

 いっそのこと夢オチだったら良かったのに体中に残る生々しい感覚が現実だと突きつける。

自分でも信じたくないほどの羞恥の数々、夕方に貴俊と二人で家を出た時にはこんなことになるなんて想像もしていなかった。

(貴俊がいないうちに家に帰ろう。そんで今夜のことはウヤムヤにして明日からまたいつも通りで……)

 痛む腰を庇いながらそろりとソファから立ち上がろうとした祐二の耳に足音とご機嫌な声が飛び込んできた。

「祐二、起きたんだ?」

「…………」

 鼻歌でも飛び出しそうな貴俊の顔を直視することが出来ない。

 自分が言った(した)恥ずかしいことの数々以外にも、風呂場からソファまでどうやって運んだのかとか、服を着せられたのに目が覚めなかったとか、身体の中に出された物はどうなったのかとか、考えれば考えるほど貴俊の前にいるのがいたたまれない。

(穴があったら入りてぇ。つーか今すぐここに穴を掘って逃げ出したい)

「ねえ、祐二。お腹空いてない?」

「す、空いてなん……ッ!」

 答える途中に盛大になった腹の音に思わず腹を抱えてうずくまる。

 小さく笑った貴俊の足音が遠ざかっていき少し離れた場所で何かしている音が聞こえてくる。

(俺の腹のバカ、バカバカッ! 空気読めってんだ、バカヤロウ!)

 あまりのタイミングの悪さに泣きたくなったけれど、漂ってきた香ばしい香りに釣られて顔を上げた。

「……たこ焼き? それに、焼き……そば?」

 戻って来た貴俊の両手には皿、作ったばかりなのか熱そうな湯気が立ち上っている。

「祐二、いつも食べてるでしょ?」

 目の前のガラステーブルの上に二つの皿と箸を置きながら、小脇に挟んでいたペットボトルの炭酸ジュースも置いた。

(いつもって、まさか……)

「屋台……で、買って来たのか?」

「うん。祐二と一緒に食べたかったから。走ったせいか、たこ焼きが少し潰れちゃった。あとね、フランクフルトと豚串もあるよ。今からチンしてくるから先に食べてて」

 再び台所へ戻る貴俊の後ろ姿を目で追った。

 自分が一人で悩んで落ち込んでいる間に、貴俊は必死になって探し回ってくれただけじゃなく、こんなことまでしてくれていたことに胸が熱くなる。

今日だって元はといえば自分の機嫌の悪さが原因だった。

 貴俊が謝る必要なんてまったくないはずなのに、素直になれない自分より先に折れてくれる、そして何があった後でも向けられる優しい眼差しは変わらない。

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