2010、夏祭り:君の隣18


 さほど広くない玄関に二人の乱れた息遣いと舌の絡み合う音が響く。

 祐二は玄関の壁に押し付けられる格好で貴俊に抱きしめられ、深く濃厚なキスを受け止めていた。

 息を吐く暇もないほど激しいキスに溢れる唾液は口の端から伝い、それを貴俊の熱い舌に舐め取られると祐二はようやく息を吸うことが出来た。

「祐二……好き、大好き」

「分かっ……た、から……止めろって。こんなとこで」

 キスをしながら甚平の中に手を入れられた祐二は慌ててその手を押さえつけた。

「ダメ?」

 手を掴まえられた貴俊が額をくっつけて切なそうな声を出す。

(反則だ……)

 いつもの少し強引なくらいがちょうどいい。

 こんなの卑怯だと祐二は思ったが、熱に浮かされてさっきから甘い言葉ばかりを囁き込まれて、感覚がおかしくなってしまっている。

 貴俊が可愛く見える上に、口では拒んだものの今すぐ欲しくて仕方がない。

 でもわずかに残る理性が暴走しそうな身体にブレーキを掛けていた。

「汗……かいてる……し」

「じゃあシャワー浴びよ? それならいい?」

 口にした言い訳も貴俊の前では無意味、貴俊は抱きしめていた手を解くと、祐二の手を引いて歩き出した。

(やべぇ……なんかすげぇドキドキする)

 暗い廊下を手を繋いで歩く、我が家のように慣れているはずなのに、まるで初めて来る場所のように緊張して、繋がれた手に力がこもる。

 これからする行為が初めてというわけではないけれど、いつも決まって何の前振りもなく突然始まるせいか、する為に場所を移動するというのが猶予時間を与えられているような気がしてしまう。

 そのせいで冷静さを取り戻した祐二は逃げ出そうかと迷ったが、心が決まるより先に風呂場へと続く洗面所へと着いてしまった。

 パッと点いた電気に暗闇に慣れていた祐二の瞳は驚いて一瞬だけ目を閉じる。

 瞼越しでも分かる明るさに、今度は気持ちの準備をしてゆっくりと目を開けると、すぐに貴俊の胸元が飛び込んで来た。

「な……なにっ、脱いでんだよっ!」

「脱がなきゃシャワー浴びれないよ」

「そ、そうだな。じゃあ……俺待ってるから」

「なんで? 祐二も一緒に入るでしょ?」

「い、一緒になんか……っ」

 入らないと言おうとした祐二は貴俊に顔を覗きこまれて、続くはずの言葉を呑み込んだ。

(くっそ……ぅ)

 なぜか抗えない自分がいることに祐二は悔しくて仕方がない。

 頭ではそんな恥ずかしいことと、憤慨している自分がいるのに、身体も心もそんなことも構わないと切々と訴えかけてくる。

「電気……点けんなよ」

「暗いと危ないよ。滑って転んだりしたら……」

「電気点けるなら一緒に入らねぇっ!」

 これが精一杯の譲歩だといわんばかりに言い切ると、貴俊は大して困った様子も見せずすぐに頷いた。

「じゃあここの電気だけ点けておいてもいい? 真っ暗じゃ本当に危ないし、お風呂場はすりガラスだしそんなに明るくならないと思うから、ね?」

 もう逃げ場所はなくなった祐二は小さく喉を鳴らした。


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