2010、夏祭り:君の隣17
祐二は気が付いたら自然と手を伸ばし貴俊の頭を抱きしめていた。
(なんかコイツ……すげーバカ)
どんな時でもストレートに気持ちをぶつけてくるし、学校の中でも人目がないと分かれば手を出そうとしてくれる。
いつだって余裕のある笑みを浮かべて、自分より何でも上手に出来る奴なのに。
(あのお姉さんが言ってた通りだったな。そんなことあるわけないと思ったのに……)
「祐二が……」
貴俊の声がいつもみたいに柔らかくなる。
「足音が聞こえて……祐二が追いかけて来てくれたと思ったのに、通り過ぎていく祐二が泣いてるのを見てすごい後悔した。慌てて追いかけたけど、どこにもいなくて、携帯も繋がらないし。すごく怖かった。もう二度と祐二と話せなくなるんじゃないかと思った。バカなことしたからきっとバチがあったんだ……」
「ほんと……お前、バカ」
「ゆ……じ」
顔を上げた貴俊にいつもの大人っぽい雰囲気はなく、泣きそうでどこか頼りないそれはずっと昔の記憶にある子供の頃の貴俊に似ていた。
祐二は抱きしめている手でいつもしてされているように貴俊の真っ直ぐでサラサラの髪を優しく撫でる。
(なんか……すげぇ可愛い)
「お前はいつだって偉そうにしてろよ。自信のある顔で笑ってろよ」
「自信なんて……祐二のことになると、ほんと不安で不安でどうかなりそうになる。だから……いつも確認したい、祐二は俺のこと好きなんだよね?」
「…………」
「祐二?」
(コイツのこういう所が嫌なんだ)
分かりきっていることをあえて口にして、あからさまな言葉にして、聞こうとする貴俊が嫌だということに変わりはない。
ムッとしたけれど縋るように見上げられて、抱き着く腕に力が込められて、祐二は逃げるように天井を見上げた。
『好きな人の前で素直になるのは恥ずかしい』
まったくその通りだった。
こんなに恥ずかしいことはない、裸を見せるよりも自分でも見たことのないあんな場所を晒すよりも、心の奥の一番秘めた部分を見せるのは恥ずかしくて仕方が無い。
今までの自分なら間違いなく一蹴していたのに、こうして迷っているのは偶然出会った女性のおかげかもしれない。
(たまには……たまには、こういう時があったっていいんだ)
祐二は自分自身に言い聞かせ、覚悟を決めるとゆっくりと視線を下ろした。
真っ直ぐ見上げている貴俊の視線とぶつかって、一瞬だけ息を呑んだ祐二だったが思い切って口を開いた。
「好きだよ」
「祐――」
「不安になる必要なんてないだろ。今までずっと一緒にいたんだから、もっと自信持てよ。で……でもな、今日の仕打ちだけはぜってぇ、忘れねぇかんなっ!!」
どうしても恥ずかしくて最後はいつものように文句が口を衝いて出た。
恥ずかしさで熱くなる顔を見られたくなくて、顔をそむけた祐二は横目でチラリと貴俊の顔を盗み見た。
自分の前で貴俊は本当に嬉しそうに笑う。
それはきっと親友の日和でも見たことがない、ましてや生徒会長になってファンの子に囲まれていても絶対に見せることがない。
自分だけに向けられる笑顔、本当に嬉しそうにでも少しだけ照れくさそうに笑う。
今日ようやく貴俊が見せた初めての笑顔に祐二は勇気を振り絞って良かったと思った。
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