2010、夏祭り:君の隣13
行きは二人で乗った電車に一人で乗って、駅から外へと出た祐二はすっかり暗くなった空を見上げてため息を零した。
あれから女性とすぐに別れた。
女性の携帯が鳴って、漏れ聞こえる声の主が彼氏だと、女性の嬉しそうな横顔を見てすぐに気が付いた。
女性は残っていた傷薬と絆創膏を手渡し、さらに「頑張って」と小さくエールを送ってくれた。
(頑張ってやり直せるならいいけど……)
祭りの賑わいなど何もない駅から住宅街へと続く暗い道を一人で歩く。
手当てをしてもらっても痛む足を引き摺るように歩いていた祐二はまた一つため息を吐く。
具体的にどうしたらいいのか分からない。
このままでは嫌だという気持ちだけハッキリしていて、以前のように傍にいるのが当たり前の関係に戻りたい。
でも、その方法が分からない。
「もう、喋ってくんねぇかも……だし」
今は夏休みだからいいけれど、学校が始まってしまったら……。
想像するだけで怖い。
きっと毎朝の迎えがなくなって、一人で学校へ行くことになる、もし貴俊に彼女が出来たら二人が手を繋いでいる姿と遭遇してしまうかもしれない。
昼休みも当たり前のように隣で食べていた貴俊がいなくなって、日和で二人きりの昼休みになるかもしれない。
部活が終わっても待っててくれる人もいなくて、帰りの電車も一人、いつも寄り道するコンビニも立ち読みも一人。
今みたいに一人でこの道を歩いていくんだ。
一人になったらどうなるのか具体的に想像した祐二の足が自然に止まる。
「どう……したら……」
大嫌いな数学の問題を解くよりも難しい。
解くカギになる方程式も公式も分からない、第一恋愛にそんなものがあるわけがない。
考えすぎて爆発しそうになる頭の中には救世主のように日和の顔がポンと浮かんだ。
(日和……そうだ、日和に相談すればいいんだ)
青稜学園に入ってから知り合った親友、日和にならどんなことでも話せる。
ようやく希望を見出した祐二は慌てて携帯を取り出した。
「でも……」
携帯を開こうとしていた手が止まってしまう。
誘いの電話を掛けた時に日和の嬉しそうな声を思い出してしまった。
家の事情で昼間はほとんどバイトしている日和が恋人と過ごせるのは夜、でもその恋人は夜からの仕事、二人がなかなか会えないことを知っている。
自分のせいで二人の貴重な時間を邪魔するわけにいかない。
祐二は携帯をしまうと再び歩き始めた。
何の解決策も見つからないまま、自分の家の近くまで帰って来た祐二は、家の前にいる人影に気が付いた。
(貴……俊?)
真っ先に浮かんだ人物に首を振って否定する。
貴俊がいるわけがない、今頃は後輩の女子達と最後の花火を楽しんでいるはずだ。
考えすぎて幻でも見えているだけかもしれないと、祐二は手の甲で乱暴に目元を擦る。
そうして再び目を開いた祐二の視線の先にはさっきよりもハッキリ見える人影。
ゆっくりでも止まることのない歩みにその姿は少しずつハッキリと祐二の目に映し出される。
「……祐二ッ!!!」
家の前まであと少しという所で、自分の名前を呼ぶ大きな声が静かな住宅街に響き渡った。
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