2010、夏祭り:君の隣12
今まで理由を考えたこともなかったし、そんな発想は一つも浮かばなかった。
女性の言った「好きな人の前で素直になるのが恥ずかしい」というセリフが頭の中をグルグルする。
まさにその通りだった。
親友の日和の前では割と素直になれるはずなのに、いざ貴俊の前に出ると強気になったり斜に構えてしまう。
それは貴俊に対して抱く劣等感がさせるものだと思っていた。
もちろん原因の一つにはそれもあると思うけれど、自分の気持ちの中にある貴俊に対する想いを認識してからは少し違ってきたような気がする。
好きな人の前で素直になることは、心の奥の自分しか知らない場所を見せているように感じる。
エッチをする時に裸になるよりも、自分では見ることの出来ないあの場所を見られることよりも、ずっとずっと恥ずかしい行為。
無理矢理暴かれるのではなく、自分から誰も触れたことのない柔らかい部分を見せる、その結果もし否定されることがあれば、心の扉は二度と開かれることはないだろう。
今まで気付かなかったけれど、もしかしたら無意識のうちに気付くの恐れて虚勢を張っていたのかもしれない。
(素直になったら……本当は彼女達じゃなくて、俺を選んで欲しかったって言ったら、貴俊は……何て思うのかな)
そんなもしもを思い浮かべた祐二は気持ちがまるでジェットコースターのように激しく上下してしまい長いため息を吐いた。
「どうしたの?」
心配そうに女性に尋ねられてもしばらくは返事が出来なかった。
長い沈黙のあと、祐二はポツリと呟いた。
「俺にはもう、無理です」
「……無理?」
「アイツは俺の目の前で、俺以外の奴を選んだ。もう俺に愛想を尽かしたから、今更何を言っても……」
「嫌だって言わなかったの?」
「そ……れは」
「その子は本当にそう思っていたのかな。もし……違っていたら? 例えば……その子も私の彼と同じように君に止めて欲しいと思っていたら?」
「そんなこと……あるわけ……」
「絶対にない、なんて言い切れないよね」
貴俊がわざとそう言ったというのだろうか。
ヤキモチを妬いて欲しくて?
行くなと止めて欲しくて?
あの貴俊がそんな子供みたいな理由で、関係のない彼女達を利用するだなんて考えられない。
どうやっても自分の中にある貴俊の姿とその仮説は結びつかない、でも女性の言葉には説得力があり「そうだったとしたら」という思いが強くなった。
祐二は俯きがちだった視線をグイッと上げると、隣に座っている女性を真っ直ぐ見つめると口を開いた。
「素直になったら……」
自然と「素直になっても」という後ろ向きの気持ちはなく、その後に続く言葉がさらに前向きなものであって欲しいと気持ちを込める。
「ちゃんと気持ちを伝えたら、きっと上手くいくよ」
女性が自分に言い聞かせるようにも聞こえたけれど、祐二にとってこれ以上ないほど力強い言葉はなかった。
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