2010、夏祭り:君の隣10


 二人はすぐ近くにあったバス停へと移動して、祐二は膝を抱くようにベンチに足を上げ座り、女性はその隣に腰を下ろした。

「沁みる?」

「大丈夫……です」

 優しい声だな、と祐二はドキドキした。

 年上だけど学校の先生よりずっと若い、自分の周りにはいないタイプの女性に、どうしても心臓は不規則な動きをする。

「今日はお友達と来たのかな?」

「……え、あ……その」

 変に間が空いてしまっただけでなく、しどろもどろな返事に女性がクスッと笑う。

(し、しまったぁ)

 素直に「うん」と言っておけば良かったのに、バカ正直にうろたえる自分を呪いたくなった。

 おまけに今のタイミングで再び貴俊のことが頭に浮かび苦しくなる。

「じゃあ……彼女と、かな?」

 彼女という言葉にまた返事が遅くなってしまう。

 本当は一緒に来たのは彼氏だから、彼女って言葉に肯くことに抵抗があるという意味じゃない。

 貴俊にとって自分はすでにそういう対象じゃないのかもしれないと思ったからだ。

「俺なんか……」

 いつもなら絶対に口にしない愚痴がついポロリと出てしまった。

 その女性はいうなら近所に住む優しいお姉さんのような感じ、実際にそうだったとしたら絶対にこんな話はしないと思う。

 まったく知らない人だから話せるのかもしれない。

 祐二は先に手当てしてもらった絆創膏の貼られた両膝を抱き、今まで誰にも打ち明けたことのない本音を口にした。

「アイツの隣にいても釣り合わない。アイツは運動も勉強も出来てモテるし、俺のことが好きとか、きっと気の迷いだったんだ……」

 どんな女の子だって選び放題のくせに、わざわざ男が好きとか、誰だって変だって思うに決まっている。

 貴俊は周りが見えていなかっただけで、タイミングもきっかけも最悪だったけど、今日ようやく気が付いたんだ。

(男が男を好きだなんてオカシイって……)

「俺はいっつも文句言ってばっかで、怒ってばっかで、優しくとか全然出来なくて」

 黙ったままの女性の反応が少し気になりながらも、一度口を開いてしまうと噴き出す感情を止めること出来なかった。

「アイツはもう……俺のことなんか、見向きもしない。きっと分かったんだ、俺なんかといても楽しくないって」

 怒ってばっかりの自分に貴俊がたまに見せていた困った顔。

 どんなに態度が悪くても側にいてくれる安心感の上に胡坐をかいて、貴俊の気持ちなんて考えて来なかった罰なんだ。

「結局……アイツのこと好きな俺だけ、置いてかれた」

 隣に並ぶのは恥ずかしくて、でも後ろを歩くのは負けたような気がして、いつも貴俊の前を歩いていた。

 後ろには必ず貴俊がいて、振り返ればいつも自分を見ている貴俊がいたのに、貴俊は見向きもせずあっさりと追い抜いていったんだ。


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