2010、夏祭り:君の隣4


 さっきまでの香ばしい屋台の匂いはどこかへ消え、代わりに何の香りか分からないけどやたら甘ったるい匂いが鼻を刺激する。

 ほんの少し香る程度ならいい香りでも、嗅覚を麻痺させる勢いの匂いの洪水に祐二は堪らなくなって一歩下がってしまった。

(アイツ……よく笑ってられんなー)

 女子達に囲まれて少し困ったような顔をしながらも、学校で見せる「生徒会長スマイル」だけは崩さない。

 でも祐二はあれがニセモノの笑顔だと知っている。

 貴俊の笑顔はもっと自然で本当に嬉しそうに、それからちょっと照れたように笑う。

 キャッキャッと騒ぐ彼女達を横目に見ながら祐二は少しだけ気分が良くなった。

(そういうのは社交辞令っていうんだぞ、バーカ)

「今日はー日和先輩と一緒じゃないんですかぁ?」

 彼女達の輪から外れてはいるものの、聞こえている会話を無理に聞こえないフリはしなかった。

(俺が隣にいるのに、聞くのはそこかよ!)

 真っ先に日和の名前が出て来たことに少し腹を立てたものの、祐二はそれほど怒るわけでもなくすぐに納得した。

 日和は見た目も可愛らしく男なのに青稜のアイドルなんて呼ばれている、学校内では祐二や貴俊と一緒に行動していることが多いから当然といえば当然だ。

(日和は今頃ラブラブデート中だ、バーカ)

 今日の祭りは日和にも声を掛けていた。

 中等部の頃からの親友の日和は見た目は女の子みたいに可愛いし、日和自身がそれを自覚していて可愛さを故意にアピールをしているけれど、中身は期待を裏切るほど男っぽいということもあり、祐二は他の友人には話せないことも日和に話すほど気を許している。

 誘った理由はそれだけじゃなく、貴俊との関係を知っている唯一の人物だということもかなり重要だった。

 日和は誘いの電話に嬉しそうに礼を言ったものの、すぐに「その日はデートだからダメーーー」と可愛い声で返事が返ってきた。

 日和の恋人は社会人で男、最初聞いた時は驚いたものの、実際に会ってみると大人で憧れるくらいカッコ良く、日和がベタ惚れなのもすぐに理解出来た。

(きっとあの人も浴衣とか着たらすっげぇ似合うんだろうなぁ)

 貴俊よりも少し背が高く、日頃から鍛えているのかしっかりした体つき、思わず見惚れてしまう体躯に浴衣を着せたところを想像してしまった。

 貴俊のように優等生のような着方ではなく、きっと少しだけ着崩したワイルドな感じかもしれない。

(日和の奴、今頃イチャイチャしてんだろうなぁ)

 恋人に甘える日和を見て恥ずかしいと思う一方で、自分にこの何分の一でも真似出来たらいいのにと思う。

 思うだけで実際は何一つ真似出来ていないことに気付かないフリをした祐二は、耳に戻ってきた声にまだ話が終わっていないとげんなりした。

「これからどうするんですかぁ?」

(見りゃ分かるだろ! 祭りを見て回るんだよ。豚串食うしフランクフルトも食うし、かき氷だって買うんだからな!)

 両手に食べ物を持って花火を見る自分を想像して思わずニンマリしてしまう。

(早く食いてぇなぁ)

 祐二はほんの少し先にある屋台の前に出来た短い列に恨めしい視線を送る。

 貴俊が生徒会長で彼女達を邪険に扱えないことは分かっていても、今は学校の中ではないしサッサと終わらせればいいのにと思った。

 自分の存在が彼女達から除外されているのは相変わらず腹が立つけれど、それでもわざわざ自分から割って入って貴俊を奪い返そうとは思わない。

 そんなことをしなくても貴俊はいつだってどんな時だって自分を最優先することを知っているからだ。

(今日の俺はいつもと違うから待っててやるんだ。ありがたいと思えよ!)

 祐二の頭の中からはさっきの気まずい出来事のことなどすっかり消え去っていた。


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