2010、夏祭り:-one-ラブモード2


 実家からマンションへの帰り道、国道の両側にはラブホテルが並んでいる。

 言いたいことは分かったけれど、素直に頷くことは出来なかった。

「明日仕事だし、それにお母ちゃんが積んでくれた荷物も、生ものはないけど帰ってから片付けたりする時間、とか……」

「だよね……」

 あからさまにガッカリした声に麻衣は自分の言い方が陸のことを拒んでいるように聞こえたかもしれないと思った。

「あ、あのね……したくないわけじゃないんだよ?」

「ん、分かってる」

「うん」

 何も悪いことをしていないのに、気まずさから居心地の悪さを感じていると、陸は突然ハンドルを切ると側道へと下りて行った。

「陸!?」

「……二週間」

「え、なに?」

 繁華街を通る国道とは違い、郊外と市内を繋ぐ国道は下りると途端に暗闇が広がる。

 あるのは怖ささえ感じる暗闇とギラギラと光るホテルのネオン、国道を下りて少し走った車は外灯もない農道らしき場所で停まった。

「少しだけ。ね……もう二週間もだよ。麻衣に触れたくて堪らない。浴衣姿の麻衣を隣に乗せて、このままじゃ運転に集中出来なくて事故りそう」

 シートベルトを外した陸は身体を起こすと右手で頬に触れた。

「ダメ?」

「……ずるい」

 指の背が頬をなぞり、そのままゆっくりと首筋を辿る。

 欲情した瞳で真っ直ぐ見つめられて、甘く低い声で囁く唇は今にも触れそうなほど近い。

 周りの環境はともかく、こんな状況で聞かれてダメと答えられるわけがない。

「少しだけ?」

「うん、少しだけ。キスして、抱きしめて、それから……ちょっと触りたいし、麻衣にも触って欲しい」

「それは少しだけなの?」

「今の俺からしたらほんの少しだけなの。ここが部屋ならご飯もシャワーも片付けも、ぜーーーんぶすっ飛ばして、麻衣をベッドに押し倒してる。ベッドじゃなくて、玄関に押し倒してるかもしんない」

 切羽詰っている声で陸はさらに続けた。

「だから、焦らさないで? 俺に可愛がられて?」

 こんな風に欲しいと懇願されたら断れるわけがなかった。

 視線と声だけでもう身体の奥が熱くなっていて、いつもの鋼のような理性は早くも溶け始めている。

「浴衣は脱がせないでね?」

「やばい。今の言葉でさらにきた」

 言葉通り陸はいつになく乱暴に唇を重ねて、すでに熱くなっている舌を絡めた。

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