2010、夏祭り:君の隣3


 頭で考えるのは簡単なのに行動で示すことの難しさに祐二は頭を悩ませる。

 いつも通り自然にと思えば思うほど、自分がどれほど貴俊に対してひどい態度を取って来たのか思い知る結果になった。

 そのせいで気まずい沈黙は続き、祐二の不機嫌そうな顔はますます加速し、側にいる貴俊の表情を曇らせる。

(なんて声掛ければいいんだよ……)

 自分のことだけで精一杯の祐二は貴俊のことを気にかける余裕はなく、この時貴俊が泣き出しそうな寂しげな表情を見せたことに気付かなかった。

 自分がされて嬉しいこと、いつもされて嬉しいこと、そんなことを思い浮かべているうちにようやく答えが出た。

(そ、そうだ! たまには俺が貴俊の好きなもんを奢ってやればいいんじゃね?)

 これ以上ないほどいい案だと踊りだしたくなる祐二はふと大事なことに気が付いた。

 貴俊の好きな食べ物が分からない。

 物心ついた頃からずっと一緒にいるのに、貴俊の好きな食べ物や嫌いな食べ物がまったく頭に浮かばない。

 貴俊のことだから嫌いな食べ物はないのかもしれない、でも好きな食べ物の一つくらいあるはずだ。

 学校がある日は毎日昼食を一緒に食べているし、週末もかなりの確率で一緒に食事をすることが多い。

 それは家族ぐるみだったり二人きりだったり、状況は色々だけれどそれでも一緒に食事を取る相手は群を抜いて貴俊がトップになるはずなのに……。

 いくら記憶を探っても貴俊の好きな食べ物が思い浮かばないことに祐二はうろたえた。

(俺って……もしかして貴俊のこと何も知らない?)

 恋人同士と呼ぶ間柄以前に生まれた頃から一緒にいる幼なじみなのに、今さらそんなことに気が付くこと自体おかしい。

「ねえ、祐二……」

「うるせぇっ!!」

 しまったと思った時にはもう遅かった。

 焦りと苛立ちで考え事を邪魔されたくないばっかりに、ついいつもの態度になってしまった。

 反射的に怒鳴り返してしまった祐二は慌てて顔を上げた時が、貴俊は表現のしようもないほど悲しそうに笑っている。

(や、やっちまった……)

 こういう時に貴俊が自分のように怒ってくれたらいいのにと思う。

 そして自分もこういう時に素直に謝ることが出来たらいいのにとも思う。

「祐二ごめんね。俺なんかと来ても楽しくないよね」

 貴俊の言葉に胸の奥がツキンと音を立てた。

 そんなこと思っていないし、一緒に来るのを楽しみにしていた、そう言葉に出来たらいいのに口は動こうとしない。

「もう帰……」

「あーーっ! 篠田先輩ですよねーっ??」

 何かを言いかけた貴俊の言葉を掻き消すように聞こえてきた甲高い声に二人は揃って振り返った。

 祐二には見覚えのない浴衣姿の女子のグループ、だが貴俊には分かるらしく彼女達に向かって軽く会釈した。

「篠田先輩も来てたんですかぁ?」

 声を掛けても無視されなかったことに安心したのか、少し離れた場所にいた彼女達はゾロゾロとやって来ると祐二の存在を無視して貴俊を囲んだ。

(きっと学校の後輩なんだろうけど……なんでこんなに馴れ馴れしいんだよ)

 貴俊が女子にモテることくらい十分すぎるくらい知っていても、綺麗に着飾った浴衣姿の女子に囲まれる貴俊を見るのは面白くなかった。


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