2010、夏祭り:-one-ラブモード1


 夏祭り会場から車に乗り、真っ直ぐマンションへ帰る車の中、最初の15分は陸のしどろもどろの説明で過ぎていった。

 言い訳のような説明を終えて、ビクビクと反応を待つ陸に、麻衣は何て言葉を掛けようか迷ったが、しばらく考えた後にこう言った。

「じゃあ八つ橋はないのね。ちょっとは楽しみにしてたのに」

 気持ちなんて本当に単純なもので、息急き切って駆けつけてくれただけでなく、父・竜之介の助言とはいえ、一番着て欲しかった浴衣を着て迎えに来てくれたことは、気を惹きたさに吐いた嘘は帳消しにさせた。

 その一言でこの話は終わりにしようとした麻衣に、ハンドルを握っていた陸は助手席に身を乗り出す勢いで麻衣に迫った。

「じゃあ、京都行こう!」

「もう、陸……ちゃんと前見て、危ないでしょ?」

「京都旅行! ね! 一番美味しい八つ橋食べよう!」

「陸がお休み取れるならね。ほら、危ないから前を見てってば」

「麻衣のためならいくらでも休む!」

「誠さんが快ーーーく、オッケーしてくれたらね」

 そこまで言うと陸は嫌そうな顔をしてようやく口を閉じた。

 少し高い位置から見る車窓の景色、座り慣れたシート、よく知った車内の香り、陸の運転の癖に身体は違和感を覚えず、助手席に乗り始めてから随分長い時間が過ぎたんだと気が付いた。

 そんな当たり前のことに気付いたのは、先週も同じ道を通ったのに、何だか落ち着かなかったことを思い出したから。

(私も運転出来たら楽しいのに)

 どんなに頼んでもその夢が叶わないことを知っているからこそ、何となく恨めしい気分で陸の握るハンドルに視線をやった。

(あれ?)

 ハンドルを握る陸の指が落ち着きなくハンドルを叩いている。

 渋滞をしているとたまにイライラすることもあるけれど、車の運転中に陸の機嫌が悪くなることは少ない。

「陸、どうしたの?」

 指だけでなく、視線も落ち着きないことに気付いて、麻衣は身体を倒して陸の顔を覗き込んだ。

 視線を合わせた陸の顔を見て何となくピンと来た。

 何か迷っている、それも少しいけないことを考えている時の顔。

「麻ー衣」

 名前の呼び方もねだるみたいに甘い声、この声で呼ばれるとその後に待っていることも簡単に想像出来る。

 そしてほとんどの場合、それを拒むことが出来ないこともよく分かっている。

「寄り道、してもいい?」

「寄り道? お腹空いた?」

「じゃなくて、ほら……」

 ハンドルを叩いていた指が道の左側を指し、指の先を目で追った麻衣の瞳には派手なネオンが映った。

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