2010、夏祭り:-one-40


 夏祭りで交通規制されている道を避け、駐車場を探す手間も惜しかった。

 電話を終えて適当に停めた車から降りると、花火の音が地面を震わせて、夜空に大きな花を咲かせた。

「見つける、なんて言ったけど……こんな中から麻衣のこと探せんのかよ……俺」

 この会場の広さがどのくらいあるのか分からない、車を停めた道路から公園へと続く道は両側に露店が並び、車両は入っていくことが出来ない。

 小高い丘、緩やかな坂に並ぶ露店、遠目からでも溢れる人の多さに陸は抱えた。

(でも、見つける)

 出会った頃の自分なら間違いなく見つけられるという自信だけでなく、見つけて仲直りして一緒に帰らなくてはというプレッシャーがそう思わせる。

 陸は携帯を手に持ったまま、露店の並ぶ道へと入って行った。

 ここに来る前に受けた竜之介からの電話は、掛かってきたことには驚いたけれど、その内容にはそれほど驚くことはなかった。


 ◆  ◆  ◆


『最初に言っておくが、これは俺の本意じゃない。俺は子供のケンカに親が口を出すことには反対だ。今まで一度だってしたことがない。でもな、美紀の心配そうな顔はこれ以上見たくない』

 挨拶もそこそこに、いきなり本題を切り出した竜之介に、いつもは感じることのない機嫌の悪さをすぐに感じることが出来た。

 用件は聞かなくても分かったけれど、そこで口を挟むほどの勇気を持ち合わせてはいなかった。

『何があったかは聞かない。こんな仕事をしているんだ、他よりもケンカになる原因は多いだろうよ。でもな、フォローを忘れんな。遊びじゃねぇなら、だ』

「竜さん、俺……」

 言葉が出なかったのは、何を言っても言い訳にしか聞こえないような気がしたからだ。

 少し考えてから一番伝えないといけない言葉を口にした。

「今から迎えに行きます」

 日常があまりに幸せすぎて、大事なことを感じる心が鈍感になっていた。

 早く麻衣に会いたい、ただその一心で電話を切ろうとした陸に、竜之介はこう言った。

『こっちに来る前に部屋で探し物しろ』

「探し物? 何を?」

『麻衣が見せたかったけど、見せられなかったもの。その理由はお前にもあるはずだ』

 それ以上は教えて貰えなかった、まるで見つけられなかったら来るなと言われているような気がした。

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