2010、夏祭り:-one-39
どうしてこんな行動を取ったのかよく分からない、見て見ぬフリも出来たけれどそうしたくなかった。
甚平姿の高校生の男の子、転んだらしく足から血を流していた。
泣き出しそうな顔をしていて放っておけなくて、親切の押し売りとは思ったけれど手当てをした。
バス停のベンチに腰かけて、始めた話は意外にも恋の話。
一緒に夏祭りに来た彼女とケンカしてしまったらしく、その男の子はひどく落ち込んでいるというより動揺しているように見えた。
話を聞いていると何だか自分と似ているような気がして、年もきっと置かれている状況も違うのに、親近感というか連帯感にも似たような不思議な感じがした。
「アイツの隣にいても釣り合わない。アイツは運動も勉強も出来てモテるし、俺のことが好きとか、きっと気の迷いだったんだ……」
「結局……アイツのこと好きな俺だけ、置いてかれた」
その言葉と置いて行かれた子供のような表情、とても他人事とは思えなかった。
陸が自分のことを置いていくようなことはない、そう思っても100%ないとも言い切れない。
自分よりもずっと若くてカッコ良くて、そんな陸が自分の元を離れたら、きっと同じように思う。
(私のことが好きだなんて、きっと気の迷い、若気の至りだったんだ、って)
彼女に対する態度を悔やむ言葉も耳に痛くて、まるで自分にも言い聞かせるように素直になるように声を掛けた。
「ちゃんと気持ちを伝えたら、きっと上手くいくよ」
だから頑張ってという気持ちを込めて言うと、男の子は最初よりは少し元気になった顔を見せて頷いてくれた。
「あ、あの……本当に手当てしてくれて、ありがとうございました」
「大丈夫かな? 歩ける?」
履き慣れない下駄のせいで皮が捲れてしまった足を心配すると、男の子は恥ずかしそうに目を伏せた。
「大丈夫、歩ける」
じゃあここで、と挨拶をしようとした時、ずっと待ち望んでいた着信音が鳴った。
「ちょっとごめんね、……もしもし?」
『麻衣っ、麻衣! ごめん、俺……ごめんっ』
聞こえてきた陸の声がどうして焦っているのか不思議だったけれど、掛けてきてくれたことがすごく嬉しい。
「陸、私ね……私、謝りたくて」
『待って! 謝らないで! 俺が麻衣のことを見つけられたら、謝らないですぐ仲直りしてくれる?』
切羽詰った陸の声を聞きいていると、側に立っていた男の子は遠慮するように少し離れたけれど、頭を下げると背中を向けて歩いて行ってしまった。
(頑張ってね。私も頑張るから)
心の中でエールを送っていると、大きな陸の声で意識を引き戻される。
『そこ、動かないで! 絶対、俺が見つけるから!』
首を傾げている間に電話はあっという間に切れてしまった。
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