2010、夏祭り:-one-38


 大柄の彰光の影に隠れようとする悠斗の襟首を掴んだ。

「本当だろうな?」

「ほ、本当っすよ!」

「彰さん、今のは笑えない冗談のつもり? それとも麻衣のことをバカにしてる?」

「悪い。今のは俺が悪かった。悠斗はそんなことしてない。悠斗の相手は“爆乳メイドのあいちゃん”最新作の“ご主人様、今夜はうさ耳だぴょん”で、ピンクのモコモコの服から零れるおっぱ……」

「だーーーーーっ! 彰さんっ!!」

 陸に捕まえられながら悠斗は彰光の口を両手で塞いだがもう遅い。

 襟首を掴んでいた陸は手を離すと、肩に手を置いてポンポンと叩いた。

「お前さ……一応ホストなんだから……」

 陸の声も届かないほど、悠斗は大声で喚き散らしている。

 しばらく喚いていた悠斗だったが、彰光以外の初耳だった三人から呆れた視線を向けられると、クスンと鼻を鳴らして唇を尖らせた。

「なんですか。いいじゃないですか。誰かに迷惑かけてるわけじゃないし、するためだけに適当に女の子掴まえるくらいなら、あいちゃんにお世話になります。顔も可愛いし、声も可愛いし、おっぱいは大きくて柔らかそうで……」

「分かった、分かった。よしよし、お前はいい男だよ」

 興奮している悠斗を宥めるため、彰光が頭を抱き寄せて優しくあやす。

(バカだなぁ、悠斗。ホストならもっと上手く立ち回れば……)

 それは自分も同じだと気付いた陸は、彰光の腕の中から顔を出して睨んでいる悠斗と目が合った。

「なんだよ」

「陸さんは贅沢だ。あんな可愛い彼女に愛されてんのに、試すようなことしてひどいっす! 俺なら絶対にそんなことしない、優しくしていっぱい優しくして好きだって伝える。好きな子に対してゲームみたいなこと出来ない」

 すぐに返す言葉が浮かばなかった。

 悠斗の言ったことはムカつくほど正論で、それは自分だって分かっていることで、お前になんて言われる筋合いないって、言い返したくても言い返せるわけがない。

 改めて落ち込む陸は肩を叩かれて振り返った。

「このままでいいのか? 足を掬われても知らないぞ。悠斗みたいな男に麻衣ちゃんをかっさらわれるぞ」

 誠の言葉に頭をガツンと殴られたような衝撃が走った。

 付き合う前は麻衣のことを振り向かせたくて振り向かせたくて、なりふり構わずに気持ちをぶつけていた頃を思い出した。

 笑顔を向けてくれるだけで嬉しくて、名前を呼んでくれるだけでドキドキして、側にいられるだけで十分だったんだ。

「誠さん、俺……」

「大事なことは間違えるなよ」

「すみません。声かけといてアレですけど、帰りますっ」

 返事を聞くまでもなかった、彰光は悠斗の頭を撫でながら手を振り、誠と響はやれやれと言いたげな顔で笑っている。

 店を飛び出して時間を確認しようとした陸は鳴りだした携帯に足を止めた。

(麻衣かも!)

 願いと期待を込めて開いた携帯には意外な人の名前、このタイミングで掛かってきたのは偶然じゃない気がして、気持ちを整えるため息を一つ吐いてから電話に出た。

『よお、陸。今いいか?』

 麻衣の父・竜之介の声が鼓膜を震わすと、自然と背筋が伸びて喉が鳴った。

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