2010、夏祭り:-one-37
ゲームを始める準備をしながら、陸は本人の前では言えなかった本音を口にした。
「だって……ヤキモチ妬いたり、拗ねたりしたら可愛いもん」
「バカだねー、陸は」
これを誠に言われたのならカチンと来るのに、彰光に言われるとそうならないから不思議だ。
「嘘吐いた結果じゃ嬉しくないっしょー? それに……麻衣ちゃんはそういうのいっちばん嫌いだと思うよ」
「俺もそう思いますね。麻衣さんって素面の時はかなり常識人ですし。だいたい人として吐いて良い嘘と悪い嘘とあると思いますよ。あ……陸さん、その装備じゃダメですよ。ちゃんと弱点を攻める武器に変えて来て下さい」
「わーったよ!!」
麻衣とのことだけでなく、ゲームのことまで突っ込まれるとついカッとなって大きな声を出した。
(一人でいるのが嫌だから声掛けたけど、こんなことなら一人でふて寝してた方がマシだったかも)
結局夏祭りイベントの昨日は京都旅行ではなく、百合と昼は屋形船を借り切って遊覧を楽しみ、夜は花火を見ながらホテルで食事を楽しんだ。
買って貰った浴衣を着たのは言うまでもない。
「響の言う通り。悠斗ー、さっきみたいに忘れもんすんなよー。だいたい、麻衣ちゃんのどこが不満なわけ?」
「準備出来た、これならいいんだろ?」
響が納得したように頷いたのを見てから、陸は彰光の方を見た。
「不満、不満なんかないんですけど。なんか……物足りないっていうか。もっとこう……俺のことを好き好きーってアピールして欲しい」
言い終わって顔を上げた陸は4人の見る目が同じだということに気が付いた。
(バカにされてる。そうじゃなかったとしたら呆れられてる)
否定はしない、反論もしない、自分もそうだと思うのだから仕方ない。
でも頭では分かっていることも、気持ちでは簡単に割り切れないことは、世の中にはたくさんあると思う。
女の子がダイエットをしなきゃいけないと思うのに、コンビニで新商品のスイーツを見つけると買わずにはいられない、それと同じことだ。
「あーあ、麻衣は今頃何してんのかなぁ。浴衣着て夏祭りデートしてぇぇぇぇっ」
「麻衣さんの浴衣姿可愛いっすよねー。うなじとかたまんないっ……ッテェッ!!! 蹴った! 今、蹴った!!」
「今のは蹴られても仕方ないなー。いい加減学習しろー。麻衣ちゃんでマスかいてんのがバレたら殺されっぞー」
彰光の軽口に反応した陸よりも早く、生命の危機を察知した悠斗は立ち上がると、両手を真上に上げた。
「無実ですっ! してない、やってない! 彰さーーんっ、何でそんなこと言うんすかー」
すでに半泣きの悠斗は陸に睨みつけられると「ヒィッ」と情けない叫び声を上げた。
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