2010、夏祭り:-one-36
「バカだろ」
「バカだねー」
「バカですね」
「バカっす……テェッ! なんで俺だけ殴られるんすか!」
日曜日、いつもなら開店準備が始まっている店内も定休日の今日はひっそりと静まり返っている。
店の一番奥、オーナールームには定休日にも関わらずそうそうたる顔ぶれが揃っていた。
「陸の話なんかどうでもいいけどな。お前らここを溜り場にするな」
事務作業のため、朝からパソコンと顔を突き合わせていた誠が、眉間の辺りを揉みながら傍らに置いてあったコーヒーに手を伸ばした。
「だから間借り代」
陸は誠の持っているコーヒーカップを指差した。
「っていうか、俺の話はどうでもいいって何! すげー真剣なんだよ! そこの三人も!」
「陸さん、俺も言いたいことがあるんですけど……聞いてくれますか?」
初心者の悠斗を含めて4人でゲーム1回戦目を終え、彰光が悠斗に付きっきりで指導する横で、一番上級者の響が同じように陸が買ってきたサンドイッチ類に手を伸ばしながら真剣な顔をした。
「話を聞いて欲しいのは俺もだけど、まあいい……先にお前の話を聞いてやる」
「俺、ラテは牛乳じゃなくて豆乳派なんです。次からは豆乳で買って来て下さい」
「次はねぇよ!!!」
(どいつも、こいつも……)
文句を言いたいけれど、休みにも関わらず呼び出した手前あまり強いことも言えない。
嘘を訂正することも出来ず、望んだ結果さえも得られず、金曜日の夜に麻衣は実家へと帰ってしまった。
もちろん麻衣は当て付けがましいことは一言も言わない、それが余計に空しくなってしまった。
麻衣と2週間もエッチしてないのも、せっかくの休みなのに野郎の顔見てゲームしているのも、何もかも自分のせいなのだから嫌になる。
「ほれ、陸。次始めんぞー。準備しろー」
彰光に声を掛けられてゲーム機に手を伸ばした陸は背を丸めると、最近お気に入りのポテトチップス用のトングで自分が買ってきたフライドポテトを摘んで口に運んだ。
「なんでこうなるかなぁ」
「それはあれだな。好きな女を試すようなことするからだ」
「仕事するんじゃなかったんですか?」
「お前らがギャアギャア騒ぐ中で出来るか!」
いつの間に側まで来ていたのか、誠はタバコを銜えコーヒーカップを片手に、引っ張ってきた椅子にどっかりと腰を下ろした。
誠だけがゲームに参加していないが、4人を見る目が羨ましそうで手を出すのも時間の問題だと陸は思っている。
「陸さん。早く準備して下さい」
いつだって冷静な響に声を掛けられて慌てて視線を戻した。
[*前] | [次#]
comment
[戻る]