2010、夏祭り:君の隣2
祭りの会場となる公園へと続く道は近付くにつれ混み始め、着飾った女の子達や楽しそうな家族連れでごった返している。
駅を降りてからまともに言葉を交わしていない祐二と貴俊は無言のまま行き先も決めず歩いていた。
「祐二、何か食べる?」
いつもの貴俊らしいやんわりとした声、どんな時だってどんなに祐二が不機嫌な時だって優しいし、どんなに邪険にしても側にいる。
今だって怒っていると分かってるはずだが、祐二はこのタイミングで声を掛けてきた理由にすぐに気が付いた。
二人が歩いていく先の右側にはフランクフルト、そのもう少し先の左側には豚串の文字が見える。
どちらも祐二が好んで食べるもので、祭りでは必ずと言っていいほど買うものだ。
貴俊のことだから絶対にそれが分かってて声を掛けてきている、それが分かった祐二は食べ物で機嫌を取ろうとしてるのがみえみえで腹が立った。
でももっと腹が立つのは小さなことにこだわったまま、子供みたいに機嫌を損ねたままの自分。
いつでもケンカをしても折れるのは貴俊、どんなに理不尽なことで怒っても先に引くのは貴俊。
小さい頃からずっとそうだった。
本当は悪いと思っているし、「ごめん」って言葉が喉元まで出掛かっているのに、素直になれない自分は言葉にするのを躊躇ってしまう。
(素直になったら貴俊も喜ぶのかな……)
いつも恥ずかしさが先に立ってどうしても乱暴な言葉遣いになってしまう、さすがに甘えるようなことは出来ないけどせめてケンカ腰の話し方だけは止めてみようか。
男と付き合うのは初めてだからよく分からないけれど、決して自分から口に出さないものの貴俊への好きは、日和や他の友人に対する好きと明らかに違う。
祐二とは違い貴俊には羞恥心があるのかないのか、あからさまな「好き」を色んな形でぶつけてくる。
同じようには出来ないにしても、最初から最後まで笑って過ごそう、それと少しだけ恋人らしいこともしよう。
恋人らしいことが一体何なのか、具体的なことは浮かんでは来ない祐二だったが、どうせ人前では無理だからと後で考えることにした。
夏の最後の思い出なんて言ったら大袈裟かもしれないけれど、そんな日が一日くらいあってもいいかもしれない。
日頃の自分の行いを省みた祐二は意を決して顔を上げた。
身長差が20センチもあるのだから当然のことながら貴俊の顔は見上げなくてはいけない、仰ぎ見た祐二はすぐに貴俊と目が合ってしまうと不自然に俯いた。
(な、なんだよ……ずっと見てたのかよ!)
ただ目が合っただけなのにドキドキとうるさい自分の鼓動は少し前から聞こえてくる太鼓の音よりも早い。
「祐二?」
優しく名前を呼ばれてドキッとする。
いつもならここで「うるせぇ!」と返すところだが、祐二はすぐそこまで出掛かった言葉を呑み込んだ。
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