『いつかの夏へ』
1
ビルの高層階にあるバーは夜景がとても綺麗で静かで大人の雰囲気だった。
私達は窓際の席に案内されて並んで座った。
私は綺麗な色のカクテルを飲みながら夜景に見惚れた。
「てっちゃん、ここはいいよ。ここで口説けば絶対上手くいくと思う!」
「いや…真子ちゃん。ほんとに違うからさ」
てっちゃんは苦笑いを浮かべながら頭を掻いている。
私はおいしいお酒と素敵な雰囲気に口が軽くなった。
「てっちゃん、あのね…」
(今度こそ…)
私は気持ちを落ち着ける為に小さく深呼吸した。
「雅樹に会った?」
てっちゃんは窓の外を眺めたまま動かない。
私は返事を待つ。
たった数秒のはずなのに何分にも感じられた。
「会ったよ」
短いけれどその言葉は胸にズシンと入ってきた。
次に用意していた言葉が出て来ない。
私は乾いた唇を潤すためにカクテルを口に含んだ。
「向こうから連絡が来てさこの前一緒に飲んだ」
言葉が出ない私に気を使ったのかてっちゃんが言葉を続けた。
けれど私は落ち込んだ。
私には連絡は来ていない。
「やっぱりさー友達はいいよな!何年も会ってなかったのに話をしたら昔みたいに話せてさー」
てっちゃんは嬉しそうに笑っている。
(もう…人の気持ちも知らないで…)
私の心には黒い霧が立ち込め始めていた。
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