『いつかの夏へ』
8

 学校に戻るとてっちゃんが雅樹の話をしてくれた。

 いつも一緒にご飯を食べた屋上にはもう雅樹の姿はなかったけれど私はちゃんと立っていられた。

「アイツ…アメリカ行ったんだって。親父さんが無理矢理留学させたって聞いた」

 アメリカ。

 あまりに遠すぎて追い掛ける事も出来ない。

(雅樹…英語苦手だったのに…)

 単語を覚えるのに苦労していた雅樹の姿が脳裏に浮かぶ。

 そんな事を心配する自分がおかしかった。

「真子ちゃん。あの日ね…アイツ俺に言ったんだ」

 てっちゃんしか知らない雅樹の言葉を私に伝えてくれた。

『真子の奴さ…こんな俺でも必要としてくれるんだ。俺…真子を幸せにしてやりたいんだ。俺…真子の為なら何でも出来る。だから…もう泣かせる事はこれで最後にする』

 てっちゃんの口から出る言葉を一言一句聞き漏らさないように胸に刻み込んだ。

 てっちゃんは言い終わると私に向かって微笑んだ。

「雅樹さ…いつか戻って来ると思うんだ」

 私も笑って頷いた。

 そして見上げた空は高くうろこ状の薄い雲が浮かんでいた。

 季節は秋になっていた。


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