『いつかの夏へ』
6

 雅樹と会えないまま夏休みが終わった。

 始業式の日お父さんは会社を休んで私を学校まで送った。

(やっと雅樹に会える…)

 久し振りに髪を梳かした。

 もう顔の傷はきれいに治っていた。

 私は制服に身を包み何度も何度も自分の姿を確認した。

 教室に入って久しぶりに会う友達と言葉を交わした。

 てっちゃんに会いに行ったけどまだ来ていなかった。

 私は逸る気持ちを抑えながら雅樹が教室のドアから姿を現すのを今か今かと待っていた。

(もう…やっぱり遅刻ッ!来たら怒ってやるんだから!)

 先生が教室に入って来ても雅樹は姿を現さなかった。

 そして先生は教壇に立つと小さく深呼吸した。

「瀬戸君ですが…昨日付けで退学しました」

 教室がザワついた。

 私は耳を疑った。

「せ、先生…退学って…あの…」

 立ち上がる私をみんなが注目したけれどそんな事どうでも良かった。

 私はまた悪い夢を見てるんだ。

 そう思わずにはいられなかった。

「瀬戸の方から退学したいと申し出があった。昨日ご両親と一緒に退学届けを出しに来た」

 私は教室を飛び出した。

(嘘、嘘に決まってる!戻ってくると約束した!)

 私は走って雅樹のアパートへ向かった。

 ドアを開ければまた暑さで不機嫌な雅樹が寝転がっていると思っていた。

 けれどドアを開けるとそこは空っぽだった。

 テーブルもシングルベッドも…二人で買ったお揃いのマグカップも無くなっていた。

 まるで夢を見ているようだった、雅樹も雅樹と過ごしたこの部屋も全部夢だったのかもしれない。

 私は膝から崩れ落ちるように玄関にへたり込んだ。

 そしてドアに出来た小さなヘコミが視界にった。

 それは雅樹の事も二人で過ごしたあの日も目の前の空っぽの部屋も現実だと告げている。

(もう雅樹はここにいない…)

 周りの音が聞こえなくなり目の前が真っ暗になった。

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